第6話

とはいえ、私たちの関係って一体なんなんだろうか……?

美味しい美味しいと食事を頬張っている誠を見ながら、ふとそんなことが頭に浮かんだ。


「うん!おいしいこれ!ピザもパスタも絶品だよ〜っ!さっすが一花!でもやっぱこのキュウリのバーニャカウダが一番かな!」


ポリポリとさぞ嬉しそうな笑みでキュウリを消費していく誠が、かつての記憶と被る。


「なんだか誠を見てると……思い出しちゃうな」


「んー?何を?」


「……子供の頃飼ってた、犬のこと。」


ポリポリという音が一瞬だけ止んで、また再開された。

その懐かしくて心地よい音を聞きながら、私は写真立てを見つめる。


「誠みたいにキュウリが好きでね……毛も、一部分だけ白くてね……綺麗な目で私を見守ってくれるの……」


写真の中のキューちゃんは、まるで満面の笑みみたいだった。


「本当に可愛かったなぁ……毎日助けられてたよ。最後の……最期まで……」


最期の、消えていく体温を、未だにありありと思い出せる。

その度に、じわ……と目頭が熱くなる。

もう20年近くも昔のことなのにだ。


「どうして……死んじゃったんだろうね……」


痛かったよね

苦しかったよね


私はずっと、謝りたくて……


「ごめんね……キューちゃん……」


気が付くと、涙が頬を伝っていた。


フワッと、懐かしい香りがする。


あの時とは違って暖かい涙なのは、誠に抱きしめられているからかもしれない。


そのことに気がつくまで、数秒かかった。


あの頃、私が数え切れないほど抱きしめてきたキューちゃんのぬくもりと香り……

それが一気に蘇ってきて、更に涙が溢れた。



「謝らないでよ一花」


ギュッと力が入り、さらに深く抱き締められながら、彼の鼓動の音を聞いた。

トクトクトク……と、少し速めに時が刻まれていくその音に、私はとてつもない安心感を覚えた。


「キューちゃんはすごく幸せだったんだから。最後の最期まで、一花がそばで触れていてくれて」


涙を流しすぎているからだろうか……

安心する香りに包まれているからだろうか……


瞼が一気に重くなる。

キューちゃんもこんな感じだったのかな……



あれ……


キューちゃんの最期について

どうして誠が知っているのだろう……



「会いたい……キューちゃん……」



夢を見た。



キューちゃんがまた私に会いに来てくれる夢だ。


一目散に飛びついてきて、引きちぎれんばかりにしっぽを振って、私の頬を舐めて。


私は思う存分キューちゃんを抱き締めて、大声で泣いた。



「だいすきだよ……ずっと……私のそばにいて……」



次こそは、一生このぬくもりを離さないと誓って。

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