第15話


「はぁ〜……何もできなかったことが悔しい!」


誠は食器を洗ってくれたり、着替えを持ってきてくれたり、せわしなく色々してくれた。

こう見えて彼は、左腕が少し不自由な私を気遣ってか、いつも率先してなんでもしてくれる。

しかし、先程からそんなことばかり言ってため息を吐いている。


「いや…、今してくれてるじゃない。わざわざ来てくれたし」


連絡を寄越さなかっただけで駆けつけてくるとは思わなかったけど。

本当に誠は、私に対して過保護だ。

傍から見れば本当に、一体誰なんだって感じだろう。


「一花が倒れた時にその場にいないと意味がないだろ……はーぁ。俺も一花と同じ職場に就職するしかないな」


「えっ!」


誠が言うと、なんでも本気に聞こえてしまう。

いや……本気かもしれない。


「一花、今ほかにしてほしいことは?食べたいものとか飲みたいものとか、必要なもの何かない?」


「うーん……別にこれといってもう……」


ない、と言おうとしたのだが、うるうるした仔犬のような目で意味深に見つめられれば、何かを命じないと拗ねてしまう気がした。


「じゃ、じゃあー……マッサージしてもらえない?」


ちょうど最近は全身のコリが酷くてマッサージ店へ行こうかと思っていたくらいだ。


「うん!!実は俺かなり得意だよ!じゃあベッドにうつ伏せになって」


誠は目を輝かせてそう言うと、かなり本格的に私をマッサージしだした。

かなり痛気持ち良くて、効いている感覚がある。

さすがボディメイクのインストラクターといったところだ。若いのに、ちゃんと体のことを熟知しているプロなのだろう。


「ん……すごくイイ感じー……」


「ていうか一花、凝ってるね…疲れてるんだね。ごめん気付かなくて。これからは毎回必ずマッサージするから」


「んぁっ!痛いそこっ……痛っぁ……」


「血流も悪かったんだろうねー。可哀想に……」


体が解れてくると、ポカポカと心地よい温かさに包まれていく感覚がして眠くなってきた。


「はぁ……明日も仕事……かぁ……嫌だなぁ」


「無理せず休んだら?」


「ダメだよ〜……今多忙期だから、皆に迷惑かかるし……」


社会に出てから、私は子供の頃よりも一層、他人に気を遣うようになった。

自分がどう思われてるかというよりも、とにかく迷惑をかけたくなくて。

当たらず触らず、ただの「良い人」でいたいだけ。

だから、頼まれごとはなんでも引き受けてきた。

その甲斐あってか、社内での評判はそこそこ良くて、上司や部下にも気に入られている方だと自覚している。

それによって、ほんの少しだけ自己肯定感が上がった気がした。

少しだけ、自分はこの世にいても良い存在なんだと認識できた。

この感覚だけが私に唯一、高揚感を与える。


「私がいないとダメなの……私が…必要なの……」


「一花……?」


……あ、寝ちゃったぁ。


「俺も、一花が必要だよ。一番。」



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