第14話
「……あ?なんでアンタがここにいる」
これでもかというほど鋭い目付きの誠に、大城は一瞬狼狽えた。
そして心のどこかで、扉の先が彼だと予想していたことにも気がついた。
「……えーと。実は高嶺さん、会社で体調崩して運ばれたんだ。だから僕は仕事終わりに寄って、」
まだ言い終わらないうちに、誠は目の色を変えて素早く部屋に上がり込んだ。
「っあ!ちょっと黒井くん!」
「一花っ!」
止める声も聞かずに誠は寝室へと急ぎ、ドアを開けた。
そこには、スプーンを口に入れる寸前の一花が目を見開いて固まっていた。
「っ!?まっ、誠?!どうしてここにっ」
「今日一度も連絡返ってこなかったし、電話しても繋がらなかったから…!ていうか…ぶっ倒れたってマジなのか?!」
「ま…まぁ……。でももう大丈夫。ただの疲れで、たいしたことないから」
心配そうに眉をひそめ、まるで泣きそうな仔犬のような誠の頭に一花は手を置いた。
「そんなに心配しなくて大丈夫だって〜」
その様子を見ていた大城は、静かに声をかけた。
「じゃー……助っ人も来たことだし、俺は帰るよ」
「えぁっ!あ、ありがとう大城くん、ほんとにっ」
焦ったように立ち上がろうとする一花を真顔で制す誠。
そして、真剣な顔をして言った。
「俺が玄関まで送る」
なんだか気まずい雰囲気で玄関まで送られた大城は考えていた。
なんだろうこの状況……
まるで彼氏に浮気の現場を見られたみたいな感覚……
ていうか、2人は付き合ってないんだよな?
なのにこの、明らかに敵対心剥き出しにしたような黒井くんの態度……
きっと、俺の去り際にも何か念を押すような強いセリフを言ってくるんだろうなぁ。
そしたら俺は……
大城は小さくため息ひとつ吐くと、靴を履き、覚悟を決めたように振り返った。
「あの、」
「ありがとう」
「っ……え?」
誠からの思いもよらない言葉に、大城は呆気に取られる。
「一花を助けてくれて、ありがとう」
「え…っ、…あ、いや……」
「職場での一花にまでは…流石に俺は把握できないから……。助かる。」
優しげな声のトーンに、しおらしく下がった眉。
予想外すぎる態度に、大城は何も言えなくなった。
「これからもよろしくお願いします」
「あ……うん……」
世界で一番大切な存在だと、そう言っていたことを思い出した。
あの時の彼の顔は、獣のように鋭くて、まるで自分の獲物を……いや違う。
飼い主を横取りされないよう威嚇するソレに見えた。
今は、ただただ主人を心配する、か弱い飼い犬のように見えてしまう。
「黒井くんは一花の……何なんだい?」
心の中で呟いたつもりが、無意識に声に出てしまっていた。
あっ、となにか言い訳を考えようとした時、
「俺は一花を誰よりも幸せにする存在。」
誠の表情が、真剣なものになっていてハッとする。
「何からも傷をつけられないように、1ミリも穢れないように、ずっと笑顔でいられるように……今度こそ一生……死ぬまで一花を守る存在。」
なぜかそれは、まるで今まで一度できなかったことを悔やんでいるかのような言い方だった。
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