第17話
今週は私も誠も本当に忙しく、結局会えないままあっという間に金曜日の夜になってしまった。
いつもならば、誠は絶対に泊まりに来る。
しかし今回は、珍しく誠が泊まりがけで行かなくてはならない仕事があるとの事だった。
しかし、私は内心ホッとしていた。
理由は、明日が待ちに待ったコンサートの日で、朝早くから大城くんが迎えに来るからだ。
だからいずれにせよ誠を泊まらせるのは無理だし、ものすごく心苦しいのだが、大城くんと出掛けるなんてこともどうにかして誤魔化そうと思っていた。
誠は自分以外の異性と仲良くすることにとてつもなく嫉妬するから。
しかしこれで、何かしらの嘘をつかなくて済んだ。
「明日、楽しみすぎるなぁ〜っ!」
私は上機嫌で、いつもは行かないデパ地下へと足を運び、高級めな惣菜やデザートを買った。
そのときふと、隣の惣菜屋に人だかりができていることに気がついた。
「なんだろう……?期間限定の美味しいものかな!」
ついつられて近くまで引き寄せられた。
そこで目に入ったものに驚愕した。
「えっ!まっ、誠?!」
誠のポスターやらPOPだらけの店。
主に女性客たちがこぞって購入していっている。
「今話題の大人気イケメンインストラクター黒井誠さんと共同開発した低カロリー高タンパクのオシャレ栄養満点弁当!そして!食べて痩せれるデザート!今なら黒井さんプロデュースのスムージーもついています!」
すごいっ……!
ここ有名な食品会社だ!
メイキングビデオに、社長と誠が映ってる!!
こうして見ると……やっぱりイケメンでマッチョで……そりゃあ一般人には見えない魅力があるよなぁ……
見慣れすぎていて分からなくなっちゃってたけど……。
「いつのまにか、もうこんなに有名になっちゃってたんだ……」
そんな彼と私が、実はこんな仲なんですーなんて、絶対に誰も信じないだろうなぁ……
「なんか……優越感。」
なんとなく私は更に機嫌が良くなってしまい、気がつくとその弁当も購入してしまっていた。
買いすぎてしまったけど、明日の朝ごはんにしてもいいし、冷凍もできるし……などと考えながら外に出た瞬間また驚愕した。
目の前のビルにも、その前を通るバスにも、誠の姿があったからだ。
よく見ると、どこもかしこも誠だった。
誠とスポーツウェアのコラボ、誠と酵素ドリンクのコラボ、誠と美容院のコラボ、誠とメンズサロンのコラボ、誠と……
「……。」
なぜ私は今まで気が付かなかったのだろう……
誠は今や、世間では知らぬ者がいないほどの有名人となっている。
嬉しいけれど、なんだろう。
明らかに、こんなただのOLとは遠すぎる存在だ。
誠は私なんかの何をそんなに気に入ってくれているんだろうか……
家について、買ってきた惣菜などを綺麗に盛り付け、誠のパッケージの弁当も摘んだ。
「……うん。どれも美味しい。」
ポッカリ空いた向かい側の椅子を、つい見つめてしまった。
本当は今夜もここに誠がいたはずなんだけど……
きっとあの優しい笑顔で明るく何かを話しながら……
このご馳走たちも、誠がいたらもっと美味しくて楽しかっただろうなぁ。
途端に寂しくなっている自分に気が付き、ハッとなった。
私、いつのまにか、傍に誠の存在がいることが当たり前になってるんだ……。
次はいつ会えるかなぁ……
" 一花に会える日が減っちゃうだろ "
このままどんどん人気者になって忙しくなったら……私なんかのこと、眼中に無くなっちゃうかもなぁ……
あんなに懐いてくれていた可愛い仔犬が、突然親離れしてしまうような、そんな妙な淋しさに陥ってしまった。
「そういえば今日……誠から一通しかメッセージきてないなぁ……」
朝のメッセージ以降、一度も来ていない。
心配と虚しさが同時に押し寄せる。
無理してないといいけど……
仕事のことは応援してるけど、あんまり応援しすぎちゃうと、誠は素直だからきっとやりすぎちゃう。
" 誠、仕事無理しないでね!大学の方は大丈夫なの?
今日はデパ地下で誠のお弁当見つけて買っちゃったよ!美味しかった^^
誠もしっかり食べてね! "
あまり自分からメッセージを送らないので、なんだかむず痒い気分になった。
基本的に誠の返信はとても早い。
だけど今回は、朝まで返って来なかった。
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