第24話
「たっだいまぁ〜!一花ちゃーん♡」
こんなに夜遅くなのに、誠はさぞ当たり前のように尋ねてきたものだからもはや今更一花は驚かない。が……
「ねぇ、一応連絡くらいはしてよ。いつも言ってるでしょ?」
「え?なんで?」
「なんでって…常識だよ?もう…」
誠は何処吹く風といった態度でまるで自分の家かのように寛ぎだした。
「はい、これ。今日の収穫〜♪
俺とのコラボ低カロシュークリームとコーヒーゼリー!結構どこも売り切れちゃってて見つけんの大変だったんだ〜」
「へぇ美味しそう。でももうこんな遅い時間だし、明日の朝ごはんにでもいただくよ。そんなことより……」
一花は手前の椅子に腰かけて、誠をジッと見つめた。
明らかに頭に疑問符を浮かべていて唖然とする。だっててっきり本人である誠からこの重大な話をしてくると思っていたのだから。
「あんたも見たでしょ?」
「へ?何を?」
「いや、何をって…!今朝の週刊誌よ!私たちのツーショットが大袈裟に載せられてんの!」
あえてテーブルの上に置いておいた週刊誌を捲り、ビシッとそのページを指さした。
「ん?あーはいはい。コレね。で?これがなんなの?どうかした?っあ、喉乾いたから麦茶貰うね」
勝手に席を立って冷蔵庫を開ける誠に更に呆気にとられた。
あのマネージャーの言っていた通りの反応だが、まさか自分にまでそんな態度だとは思わなかった。
そして思った。
やはり誠はまだ子供なのだと。事の重大さを分かっていない。
「お!いつものキュウリあるー♪いえーい!」
冷蔵庫の方でポリポリと音が聞こえたので我に返り、ピシャリと言い放った。
「誠!お座り!」
その瞬間、ピタリと音は止み、風のように一瞬で一花の元へと飛んできて、なんと椅子ではなく一花の足元に正座しだした。
「……え?あ、いやいやそこまでしろとは…」
「なぁに?一花!」
まるで何かご褒美でも待ち構えているようなワクワクの瞳で見上げてくる誠に既視感を感じた。
なんだろうこれ……なんか本当に…キューちゃんに重なって見える……
いやいやいや!じゃなくって!!
「あつ、あのねぇ!こんな年上の謎な女との密会なんて撮られちゃったら、この先、誠はますます四六時中パパラッチに追われて大変な生活になるし、ファンへの衝撃だって凄くて経済にも影響が出るの!しっかり自覚してよっ」
「えぇー?どうしてそんなこと気にするの?だって別にそれで良くない?」
「は?」
「それの何が悪いんだよ?別に俺らは普通に自分の人生を生きてるだけじゃん。」
「……。」
真顔でそう返されてしまうと、なんだか何も言えなくなってしまった。
確かにそれはその通りなのだが……
「でもさ、誠……私は誠の人生の邪魔はしたくないの。絶対に。」
一花は椅子を降りて、正座している誠の前に自らも正座した。
「だからね、もう……闇雲に会うのは控えたい。」
そう言うと、誠は目を見開いてブンブンと首を横に振った。
「嫌だ!!一花に会うことが俺の生きる意味なんだ!会えないのなら、生きてる意味ない!」
ギュッと手を握られ、真剣な眼光で訴えかけてくる誠に一花は眉を寄せた。
「っな、何言ってるの?だいたいっ、どうしてそこまで私に執着してるのよ…」
「だってそのために生まれてきたんだ俺は!」
握られた手に力が入り、なんと誠の目が潤んできていた。今にもその美しい目から涙が零れ落ちそうだ。
「そ、そのために生まれてきたって……」
「本当だよ…本当なんだ。だから俺は…いつでもどこでも、一花と一緒にいたい。一花に会えないのなら、死んだ方がマシだ…」
「っ!!」
ボロボロと本当に涙を流し始めた誠に、一花は慌ててティッシュペーパーをとるため立ち上がろうとした。
しかし……
「っ、誠っ」
ギュッと抱き締められた。
いつもの誠の、とてつもなく安心する不思議な香りが鼻に広がる。
「お願いだよ一花……そんな悲しいこと言わないで…」
「わっわかったわかった!わかったから!」
抱き締め返して背中を撫でると、頭を擦り寄せて来て、こちらまでなぜか泣きそうになった。
そして彼に触れているととてつもなく安心する。
「……ごめんね、誠。もう言わないよ。でも、どうすればいいかちゃんと考えよ?私も今の生活に支障がでたら困るし…誠もでしょ?何かあってずっと会えなくなるのなんて私だって嫌だよ…」
「……ホントに?」
「うん……」
私は気が付かないうちにいつのまにか、誠が大好きになっていたんだろう。
子犬のような目をして、ペットのように懐いてくれて、キューちゃんのように癒しをくれる誠に。
一花は今日柳原マネージャーと話したことを誠に話した。
そして予想通り、誠は一花の言うことに素直に従った。
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