第19話
翌日の新聞やウェブサイト、SNSは、ほぼ黒井誠について大々的に話題にされていた。
" 黒井誠の大切な人とは?!"
" 黒井誠、恋人がいた?!"
" 黒井誠の恋人は幼馴染との噂!"
などなど、ひっきりなしに皆が話題にしている。
中には、モデルの〇〇なんじゃないかとか、同じ大学にいるんじゃないかとか、女性といるところを見かけたなんていう話も出回っていた。
普段からフードを深く被り、カラーサングラスをかけているが、それでもやはり目立つオーラは隠しきれないので、今後はもっと本気で変装させなくてはならないなと思う。
「……誠の負担にだけはならないように気をつけなくちゃ……」
そしてその日の夜、誠は少し久しぶりにうちに来た。
「一花〜っ!会いたかったぁ〜っ!」
扉を開けるなり、ギュッと抱きついてきた誠。
この調子にはだいぶ慣れてしまった。
「お疲れ様。誠ここまで大丈夫だった?誰かに見られたり追われたりとか…」
「大丈夫〜、マネさんに送ってもらったから〜。もうほんっと疲れたよ〜はぁ〜」
いつのまにかマネージャーまでいるなんて、本当に雲の上みたいな存在になっちゃってる。
「はい、これお土産♡」
「えっ、なぁに?これ」
渡された紙袋を見て目を丸くする。
ん……?これって、ヨゾラヒカリの限定紙袋じゃ……
恐る恐る中身を取りだして目を見開いた。
思わずソレを落としそうになってしまったくらいに、手が震えた。
「……っ……」
言葉を失って口に手を当て、ただそれを見つめていると、誠がくすくすと笑った。
「ヨゾラさんが、一花によろしくだって」
それは、私宛に書かれているサイン色紙だった。
私の名前と、私の誕生花であるガーベラが描かれていた。
「俺の中ではずっとずっと、一花のイメージは、一輪の花なんだ。一花の目の中には、花が咲いてる。
その花が何の花なのか、ずーっと分からなかったんだけど、こないだやっと分かった。ガーベラだよ。」
袋の中には、赤いガーベラが一本入っていた。
赤いガーベラの意味……
1本の意味……
涙腺が一気に緩み出す。
1度、本気で死のうとしたことがあった。
キューちゃんが亡くなってすぐのことだ。
そのときに、ふと目の端に、赤いガーベラが目に入った。
雑草に囲まれ、風や雨に打たれる中でもたった一本、凛として美しく輝いているその強さと美しさに感化され、私は死ぬことをやめた。
そんなことを、私はなぜか今、思い出してしまった。
「誠…っ……私、聴いたよ。
ヨゾラさんが私のために歌ってくれた、幸せの花……。誠が私のためにリクエストしてくれたやつ……」
「うん!良かった〜!俺もあの曲大好き!」
いつだって、あの曲に救われてきた。
それをまさか、私のために歌われる日が来るなんて夢にも思わなかった。
そんなようなことを、泣きそうになりながら誠に言った。
「やっぱり誠……私が昨日あそこにいたこと知ってたの?」
「うん。大城さんが教えてくれたんだ。」
「えっ?!」
「あの人から言ってきたんだよ。一花の夢を叶えたかったみたい。でもなんとなく、俺に隠れて一花を連れ出すのに罪悪感感じるからってさ。」
私はただただ唖然としてしまい、複雑過ぎる感情に言葉が出なくなっていた。
今回の出来事は、2人の思いやりによって私のために実現されたものだったのだと。
「だから、それとなくヨゾラさんに提案したんだよ。そしたら彼女も喜んでて!俺の大切な子が長年ヨゾラさんに救われてきたって言ったら……って…!一花泣いてる?!」
「だって……」
自分のために、誰かが思いやりを持ってくれることが、これほど嬉しいことだなんて知らなかった。
そして、誠がただヤキモチを焼くだけだろうと黙っていた自分の浅はかさも知った。
誠は、そんなに器の小さな男じゃない。
誠はいつだって……
「俺は、一花を幸せにするためなら、なんだってやる。それが俺が生きてる意味だから。」
どうしてそこまで私に……
当然、その疑問はある。
だけど……
ただただそれは私に、「生きててよかった」と思わせてくれた。
赤いガーベラの意味……
燃える神秘の愛、チャレンジ
一本のガーベラの意味……
あなたが私の運命の人
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