第28話
「てめぇ誰だ。俺の女連れてどこ行く気だ?あ?」
未だかつて、こんな誠は見たことがない。
口調も態度も、まるで別人のようだ。
「えっ、なんだ、彼氏と来てたんだ。ならそう言えよなー。」
長身で筋肉質な誠に少々たじろぎながら、男はサッと一花から離れた。
「おい待て」
「なんだよ。ただ昔の知り合いだから喋ってただけだって」
「じゃあなんでこんなに一花が震えてんだよ。顔色も悪いし目も赤いし……てめぇなんかしただろ。許さねえからな?」
「いっ、いやいや言いがかりじゃん?証拠でもあんの?」
誠は鋭い目つきを男からは一切そらさずに、一花を優しく抱き寄せた。
安心する体温と香りに一花の涙腺がゆるむ。
ツーと垂れてくる涙に、誠は眉をひそめ、一花の頭を自分の胸に押し付けた。
一花は、同じ男なのに誠にだけは触られてもただただ心地好いのだということを実感していて、他のことはもう何も考えられなくなっていた。
「一花が泣くほど嫌がってる。証拠なんてそれだけで充分だ。一発殴らせろ。」
「殴っ?は、はぁ?!」
誠は腕をまくった。すると出てきた腕の刺青を見て、男は顔面蒼白にして後ずさる。
完全にヤクザだと勘違いしてしまっていた。
「ちっ、ちち違うっすよ!?そいつが俺についてくるって言ったんだって!本当に!」
「んなことどーだっていい。一花に少しでも嫌な思いをさせる人間は片っ端から全て全員地に落とす。そう決めてんだよ。」
「なっ、なんだよそれっ……だ、だいたい!ここで暴れたらお前が捕まるからな!」
腕を回しながらジリジリと近づいていた誠が、その言葉にピタリと止まった。
「……そうか。たしかに今日はデート中だし、それは困るな……」
「…だろ?じゃあここは穏便に平和にさ、何も無かったことにしようぜ。代わりに良いこと教えてあげるからさ、彼氏さんに。」
「あ?良いこと?」
「一花がめーっちゃ喜ぶ、一花が好きなこと、知りたいでしょ?」
目を僅かに見開く誠に、男はニヤニヤと近づくと、耳元でコソッと言った。
「実は一花はね、縛られて痛いことされるのが大好きなんだ。たとえばー……」
その瞬間、音もなく男は顔面蒼白にして倒れた。
そして……
「う…ぁっ……あっ……ぁ……ぁ……っ」
と、声すら出せなくなるほどの痛みに悶え苦しみながら地面に転がっていた。
というのも、誠は男の股間を一瞬にして膝で捻り上げたのだ。
冷徹な目で見下ろす誠が、悶え苦しむ男にしゃがみこんだ。
「ねえ、それそんなに楽しいならさぁ、今度俺ともその遊びしようよ。2人で、ね?約束な?」
気絶してしまった男の胸元から身分証を取りだし、誠は冷静に写真を撮った。
そして立ち上がり、クルリと一花に向き直る。
そこにいるのはいつもの無邪気で明るい笑顔の誠だった。
「おっまたせ〜っ♪もうすぐパレード始まっちゃうじゃん!行こう一花!」
肩を抱かれて歩き出そうとした一花は、恐る恐る後ろを振り返った。
すると、女性が一人、こちらに頭を下げているではないか。
「あのっ…ありがとうございました……こいつ、私もどうしようかと思っていて……あとのことは私が適当にやっておきます。」
今の彼女だろう。昔の一花のように、別れたくても別れられなかったのかもしれない。
誠はそんな彼女には興味なさげに適当な返事をしただけだった。
ただただ一花のことしか考えていない、一花を守るためなら手段を選ばない、それが、黒井誠という青年である。
「一花、大丈夫?1人にしちゃって本当にゴメンね。もう絶対1人にしないから。」
「大丈夫……助けてくれて、ありがとう…
私、本当にね、あの……っ、ついて行こうとしたわけじゃなくてっ……」
「大丈夫。わかってるから。」
ベンチに座ってひたすら背中をさすり、手を握っていてくれる誠。
そして何も聞かないでいてくれる誠に一花は安心感でまた涙腺が緩んだ。
「……ど、して……そんなに優しいの?」
「え?ははっ、俺ぜんっぜん優しくないよ?
ただ、一花のためならなんでもするだけだよ。」
ニコニコと微笑んでいる誠の裏の顔は、憎悪に塗れていた。
あの男……ぜってー殺してやる。
死んだ方がマシと思うくらいにいたぶって。
誠はスマホを取りだし、白岩直希に先程の写真を送った。
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