第11話
「って感じだったんだ。昨夜は。」
「もーーお!やぁっっとそこまで行ったかぁ〜っ!よぉやく前進じゃん!」
昼のランチ時、最近リニューアルされたばかりの広い食堂の窓際で、私は毎度の如く雪乃に報告をさせられている。
「にしてもさぁ、大城健太郎!あの人やっぱりまだ一花に未練があるんだね。まぁベタ惚れって感じだったしね。」
「そ、そうなのかな……」
「気づいてなかったかもしれないけど、あの人別れてからもずっと一花のこと気にかけてるの分かるし。男って女よりも引き摺るんだよ?」
雪乃は社食の魚を丁寧に解しながら、はぁ〜とため息を吐いた。
「いいなぁ〜、一花はモテて」
「え!ちょっと待ってよ!私より全然モテモテな雪乃が何言ってんの?」
雪乃は容姿も整っているし仕事もできる。
更には男の扱いにも慣れているため、非常にモテていることを私だって社内の皆だって知っている。
こうして普段から彼女を見ていても、綺麗な食事の仕方然り、所作やメイクやネイル然り、申し分ないほど男ウケするものを兼ね備えている。
「私は自分が素敵だなーって思った人からはまっったくモテないんだよ?どうなってんのよホンットに」
「そうなの?うーん、確かにそれはどうなってるんだろうね?」
「つまり両思いってのは奇跡の確率なんだよ。滅多にそんなこと起きないの。だから大事にしないとダメなんだからね?」
「……両思い…かぁ…」
私は……両思いになったことなんかない気がするけど……。
「大城くんと一花って、私から見てても羨ましいくらいお似合いだったよ。一花すごい大事にされてるんだなーってのもよくわかったし」
「……そう、かな……」
「ま、詳しくは聞かないけどさー?
両思いと同じように、別れたあとですら自分のことをめちゃめちゃ大事にしてくれる人ってのも、滅多に現れないからね。一花が嫌じゃないなら、復縁考えてみるのもアリじゃない?」
そんなふうに言われると、とても複雑な気持ちになってしまう。
一方的に振ったのは私だし、大城くんは確かに、私が今まで付き合った中でも1番私のことを大切にしてくれた。
「あっ、ほら、噂をすればよ!」
雪乃の視線を追った先には、こちらに向かってにこやかに歩いてる大城くんの姿があった。
目が合ってドキリとなる。
私か雪乃に、何か用だろうか?
「お疲れ、2人とも。ここ、いいかな?」
「お疲れ様ぁ〜健太郎くん!私もう食べ終わったし、コーヒー買って戻るから、ここどーぞどーぞ!」
「えっ、雪乃っ」
「ごゆっくり〜」
絶対にわざとだろうが、雪乃はヒラヒラ手を振って行ってしまった。
雪乃に話しかけながら食堂を一緒に出ていく他の男性社員が目に入った。やっぱり雪乃はモテる。
「いっ……高嶺」
「あっ、大城くん、昨夜はありがとう本当に。マカロン美味しく頂いたよ」
「それは良かった。黒井誠くんも喜んでた?」
「うん!美味しいって言ってほとんど食べちゃって…っ!あっ……ごめん」
余計なことを言ってしまった。
誠がうちに来たことが完全にバレてしまったじゃないか!
「本当に…驚いたよ。高嶺があの黒井誠くんと付き合っていたなんて……」
「えっ、違う違う!付き合ってないよ!」
「えぇっ?!だって彼はあぁ言ってたし、一緒に住んでるんじゃないの?」
" 俺の世界で1番大切な人だから
邪魔しないでね "
誠の昨夜の言動が脳裏で反芻され、カッと顔が熱くなる。
さすがにあの発言と態度は初対面の人に対して失礼だと思ってあのあとすぐに誠を叱ったが……
大城くんはやっぱり気になっていたのだろう。
「ごめんね。あぁいう子なの。悪気はないから気にしないでね。それに、一緒に住んでるわけないよ。彼はまだ大学生になったばっかの子で」
「あぁ学生だってのはもちろん有名人だから知っているけど。それにしてもすごく好かれてるんだね彼に。」
「う、うん……そうみたい……」
「一体どんな縁だったんだろうってあの後いろいろ気になっちゃってさ。」
「雪乃とジムに行った時に知り合っただけだよ。それからたまに会ったりするけど……付き合ってるわけじゃないし、なんていうか……」
関係性を聞かれると本当に困る。
自分でもわかってないのだから。
しかも、1年後には付き合ってなんて言われたわけだし……
「ならよかったよ」
「え?」
「これが手に入ったからさ、誘おうと思ってて」
大城くんが取りだしたものに目を丸くする。
一気に血流が早くなるのがわかった。
「うそ?!すごいっ!」
「よーやくだよー。ホントは付き合ってた頃に連れてってあげてればよかったんだけどさ」
それは、私がずっと行きたいと思っていた、憧れの歌手のコンサートチケットだった。
「3週間後の週末なんだけど、空けられる?」
「うんうん!絶対に空けるよ!ほんっとすごい!ありがとう、健太郎!」
目を輝かせながらそう言うと、彼はハッとしたように目を丸くし、すぐにそれは微笑みに変わった。
「あっ……」
「やっぱり俺は、いっちゃんのその笑顔好きだな」
「や、やめて……」
つい、付き合っていた頃の呼び方で呼んでしまった。
揶揄っているのか、彼も当時の呼び名で呼んできて、一気に顔が赤くなったのが自分でわかった。
それを隠すように私はペットボトルのお茶に口をつけた。
彼はなぜか嬉しそうに、ずっとニコニコと笑っている。
" 別れたあとですら自分のことをめちゃめちゃ大事にしてくれる人ってのも、滅多に現れないからね。一花が嫌じゃないなら、復縁考えてみるのもアリじゃない? "
雪乃の言っていたことが、ぐるぐると頭を回っていた。
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