第18話


次の日、早朝から大城くんは迎えに来てくれて、車で2時間近くかかるコンサート会場まで走った。


「道中ちょっと長いから、テキトーに食べ物飲み物買ってきておいたよ」


「ほんと?わざわざありがとう!大城くんとドライブなんて久しぶり」


袋の中には、私が好きなものばかりが入っていて、まだこんなことまで覚えていてくれたのかと少し感激した。


「俺ウキウキしすぎてあんま眠れなかったよ」


「ちょっとそれ事故ったら危ないよ?まぁ私もあまり眠れなかったけど」


「いやー、ホントそうなんだよなーははは!でもほら、エナジードリンク買ってきたから」


久しぶりに2人きりでいろんなことを喋り合うこの時間は懐かしくて楽しくて、あっという間に目的地へと到着してしまった。


「うわぁ〜っ……もの凄い人だね……」


「そりゃあ、あのヨゾラヒカリさんだからねー」


彼女の曲は、曲調だけでなくとにかく歌詞がとても好きで、子供の頃から毎日聴いては励まされていた。

嫌なこと辛いことがある度に、まだ生き続けようという、未来を信じるパワーをくれる。


だから、彼女の歌声を生で聴くのがずっと夢だった。


だから、大城くんとのデートみたいにはなってしまっていて複雑だし誠にも内緒だが、こればっかりはどうしても譲れなかった。


「みんな凄い……!」


どこもかしこも、目に入る人たちは皆、ヨゾラヒカリのイメージカラーとデザインを意識した服装をしている。


「そういえば、高峯の今日のワンピース可愛い。ネイルも。それもヨゾラさん仕様だろ?」


大城くんの言葉に、私は一気に顔が熱くなってしまったが、控えめなのに気付いてくれたのは嬉しかった。


彼女のイメージとデザインは、銀河系の夜空の中に、一つだけギラギラと目立つダイヤモンドがある……といったようなものだ。

だから今日のこの会場では、皆同じような系統の服装をしていて、まるで本当に宇宙の中に来たみたいな雰囲気だ。


「なんだかこれじゃ、はぐれちゃいそうで危険だな。手を繋いでおこう。」


キョロキョロとしていたら、パッと手を取られた。

ドキドキと胸が高鳴っている自分は今、念願の彼女に会えることへの興奮か、それとも大城くんに対してなのか、分からなかった。



コンサート開始前、周りから声が聞こえた。


「サプライズがあるって、なんなんだろ〜っ」

「私もそれ超〜楽しみにしてたんだァ!」

「えー?怖くない?もしかしたら突然の休止とか……」

「やだ!やめてよ!嘘でしょ?!」



そういえば……サイトにも会場のポスターにもそんなこと書いてあったな。


サプライズっていうから、ネガティブなことではないような気がするけど……

もしかして……結婚とか?!



「「「わぁぁあああああ!!!」」」


すごい歓声と共に幕が上がった。


そこに見えたのは、少し遠目からだけど、美しいドレスに身を包んだヨゾラヒカリ本人。

周囲には生演奏隊が音を奏でている。

ライトやバックの演出によって、まるでこの会場が1つの宇宙となっていて、私の目が一気に潤んだ。


彼女の歌声は、いつも機械を通して聴いてきたものとは少し違って、けれども生なのだという迫力が凄くて、とにかく圧倒された。


プログラムでは何の曲を歌うのか、新曲以外は明かされていなかったけれど……

彼女の曲は本当にどれもあまりにも素敵で、いつも癒しをくれて前向きな気持ちにしてくれる。


2曲歌い終えたあと、彼女の挨拶やコメントの時間を挟んだ。


「今日、皆さんもご存知の通り、サプライズがあるんです!絶対に皆さん喜んでくれるはず!私も朝から大興奮しちゃってました〜っ!」


ついに来た……!

と、周りから大きな歓声が沸き上がる。



「実は〜……サプライズゲストがいます!!」



おおおおおお!!!とまた大きな歓声が上がる中、私も興奮してきてしまった。

これはラッキーすぎる!!!

有名人をもう1人見られるなんて!!!

ヨゾラさんの仲の良い歌手とか芸能人とかだろうか……?

どうしよう!心臓がバクバクしてる……!



「はーい!じゃあ登場してもらいますね〜っ!最近みんなが大好きな!大注目のあの人でーす!」


その人物が、ステージの奥から笑顔で登場してきた瞬間……


周囲の大きな歓声に包まれながら、私だけ言葉を失い、目が点になってしまった。



「きゃぁぁああー!!黒井誠だぁあ!!」

「やばい!泣きそう!超ラッキーじゃんうちら!」

「最高!彼氏も大ファンだから自慢しよーっ!!」

「生だと背ぇ高ーい!マッチョー!イケメーン!」



凄い人気だ……

ていうか……どうして誠がヨゾラヒカリのコンサートにゲストとして呼ばれてるの?!


「あ…あれって、黒井くんだよね?!高峯はこのこと知ってたの?」


「しっ知らないよ!何も聞いてない!」


当然、大城くんも目を丸くしている。



「おーっ!さすが黒井誠くん!私の時より歓声が凄いんじゃないですかー?!」


「あ……こんにちは〜皆さん。黒井誠ですー」


「「「きゃぁぁあぁぁあああ!!!!」」」



画面でアップに映し出されている誠の表情は、苦笑い気味だ。

そういえば、あんまり大きい音とか苦手だって言ってたな……



「実は黒井くんは、私の今のパーソナルトレーナーをしてくれていて、私も大ファンなんだ〜!今回の記念すべき20周年コンサートでゲスト出演を頼んだら、快く引き受けてくれてー……」


そうだったんだ……。

私がヨゾラヒカリの大ファンだってことは、誠も知っている。

うちにある彼女のCDや写真集とかについて話したりもしたし、家にいる時はたまに曲を流しているから。


でも、だったら今日のこと教えてくれてもいいんじゃないの?

と一瞬思ったが、まぁ私も内緒にしていたわけだし、いちいち私に報告することでもないのかな。


「僕も実は今日、ヨゾラさんにリクエストがあって来たんです。」


「おっ?そうなの?なになに?」


「僕の大切な子がヨゾラさんの大ファンで。

その子はとくに " 幸せの花 " が好きなんです。だから歌ってもらえたらなって」


周囲が一気にどよめいた。

それもそうだろう。

「大切な子」などと発言してしまったのだから。

そしてそれは、私が一番好きな曲だ。



「お易い御用ですよー!この曲は、私が生きることに疲れて希望を失っていた時に書いた大切な曲なんです。では、黒井くんの大切な人に向けて、この歌を贈りますね!」



その歌は、キューちゃんがいなくなってから、辛いことがある度に聴いては励まされていた曲。


いつも聴いてきた曲なのに、本人の目の前で聴くそれは、いつもと違く感じた。

100倍も1000倍も心に響き、そして胸を打たれる。

感動のあまり、無意識に涙が零れた。



コンサート終了後、さすがに周りは皆、

「黒井誠の大切な子」についてとても盛りあがっていた。

グッズを買うために並んでいる時も、ただ歩いている時も、周囲からはその話題の会話ばかりが耳に聞こえた。


「黒井くんはやっぱりすごいね。まさかヨゾラさんとの繋がりまであるなんて……」


「うん、私もびっくりしたよホントに。でも不思議なのは、まるで今日私がここにいることを知っていたみたいな感じだったこと……」


そうじゃないと、私に聞かせるために歌のリクエストってしないんじゃないかな。

それかもしかして、録画でも撮っていて、それを私に見せる計画だったとかかな……?



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