第4話
「一花っ!そんなに肩が出てる服着たら危ないよ!もう何度言ったらわかるんだよ!」
「えぇ……これそんなに出てるかなぁ……普通だと思うけど」
プンスカしながら私の肩に自分の上着をかける誠を、道行く周りの人たちがチラチラと何度も見ては通り過ぎていく。
その大半は、主に女性たちだ。
この子はどういうわけか、かなり私に厳しい。
そしてかなり馴れ馴れしい。
何者のつもりでどういうつもりかは知らないが、私に出会ったその日から、まるで昔からそんなふうにお節介の身内だったかのように接してくるのだ。
今年28歳の私、高峯一花はある日仲の良い同僚に誘われて、最近流行りのジムの一日体験へ赴いていた。
「珍しいね?雪乃がジムに興味持つなんて」
「ほら30近くなってくるとさぁ、ちょっと食べすぎただけですーぐ太るじゃん?」
「それはまぁわかる……代謝落ちたなぁって。でも私、ジムなんて行ったことないよ。大丈夫かなぁ」
私が自由の効きにくい自分の左腕を無意識に撫でると、雪乃はポンと肩に手を置いた。
「大丈夫!そこまで身体を駆使しないものも最近は多いし、なによりね……」
興奮気味の顔をした雪乃に、「ん……?」と首を傾げる。
「そこのインストラクターが、めっっちゃくちゃカッコイイって有名で、雑誌にも載るくらい大人気なんだって!」
「え、そうなの?……て、雪乃ダイエットよりそれが目的なんでしょ?」
「へへっ、バレた?もぉほんっと今日楽しみにしてたの!この人の指名枠、5ヶ月も待ったんだから!」
「はぁ?!ちょっと待ってそんな前から?!」
いろんな意味で驚いてしまった。
世の中いろんな人がいるもんだなぁ……
そもそもジムって本来そういう目的で行くところではないし、そんなに待つくらいなら他の人でいいし、もっと言えば、誰だっていい。
しかも……そこまで人気なインストラクターって一体どんだけカッコイイ人なんだろうか?
「あっ!キタキタ!ほら見て一花っ!あの人よあの人!!きゃぁぁあーーーっっ!!想像以上!!」
私は初めてその人を見た瞬間、稲妻に打たれるような衝撃を覚えた。
くらりと一瞬目眩がし、左腕がズキッと痛んだ。
「大丈夫?一花。ふふっ、やっぱなんだかんだ言って一花も、かっこよすぎてビックリしちゃったんでしょ?!まだあの人、10代なんだって〜!」
「じゅじゅじゅ10代ぃぃい?!?!」
目が合った瞬間、私は時が止まったようになった。
なぜだか胸の奥がジワジワと疼き出し、目頭が熱くなる。意味のわからない感覚に陥って言葉が出なくなった。
雪乃はそんな私を見て、ニヤつきながら言った。
「はじめまして〜♡ごめんなさい、この子あまりにも黒井さんがカッコイイから緊張しちゃってるんですぅ〜」
「黒井誠です。本日はよろしくお願い致します」
「アタシは鈴木雪乃で、こっちは友人の高峯一花です」
「い…ちか……」
「え……?」と思わず声を出してしまった。
なぜならこの、黒井誠くんという子は、私の名前を呟きながら、まるで今にも泣き出しそうに目をうるませ、そして微笑んだからだった。
悲しそうなのに嬉しそうに、安心したように……私に「こんにちは……」と挨拶した。
その泣き笑いみたいな、なんとも言えない表情が、どうしてもどこかで見たことがある気がして、脳裏から離れなかった。
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