第7話 【side 魔族ピルグリム】

「いやはや、まさか聖女の因子を持つヒトゾクがこんなところで調達できるとは。良き土産となる。これも偉大なる神アレスのお導きですね」


 頭部から禍々しい羊のような角を生やした人物が、束縛された冒険者の格好をした少女を見下ろしながら歌うように話していた。


「ピルグリム、閣下。また、侵入者、です」


 ピルグリムと呼ばれた羊の角の人物に頭を下げるのは筋骨隆々としたコボルドだった。

 コボルドの中でも最上位の存在。コボルドキングと呼ばれ冒険者から恐れられるモンスターだった。

 実際、束縛された少女はコボルドキングの姿に恐怖に打ち震えていた。


「おやおや。これから良きところなのに邪魔が多いこと。もう間もなく、この腐臭に満ちた邪気が払われて、待機させたものたちが一気呵成にかの国のヒトゾクを滅ぼそうという大事な時なのです」

「かしこまり、ました」


 ◆◇


「ピルグリム、閣下、ダメ、です。侵入者たちの侵入が防げません」

「なんと! お前の部下たちは?」

「ことごとく、既に……。敵はヒトゾクの男一に、ヒトゾクの女、二。特に男が非常に手強く。我も向かいます。これまで閣下に、お仕えでき、光栄でした。偉大なる神あれすに、栄光、あれ」


 コボルドキングはピルグリムに向かって手にした剣を捧げた後、その場を立ち去る。


「──はぁ、なんともままならぬこと。これだからヒトゾクは嫌なのです。時たま現れるイレギュラーな強さの個体。それに我々は何度苦しめられたことか。しかし、私もこの場を立ち去ることはままならぬゆえ。この命を賭けても。此度の計画は果たさねば……」


 呟くピルグリム。その耳にも、部屋を出たコボルドキングと侵入者が戦う喧騒が届く。

 しかし、その喧騒もあっという間に静まってしまう。

 それがコボルドキングの敗北を告げることは明白だった。


「──例えここで私の命が果てようとも、残された者たちが遺志を継ぎ、我らが宿願は果たされん。さあ、いざ死合おうではないか」


 手にした錫杖を、現れたヒトゾク三人に向け告げるピルグリム。


 その言葉は相手に理解されないと思っていたピルグリムだったが、現れた侵入者のうちの一人が「理解力」スキルを持っていたために、その言葉の意味はもちろんのこと、その背後にある計画についても一部、わか理解られてしまう。


 しかしそんな事実に気づくことなく、魔族の将たるピルグリムはここで討ち死にするのだった。


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