第10話 side リヒテンシュタイン 2
「お、おいっ! どうなっている! 誰か報告せよ!」
人もまばらな謁見の間に座ったまま、オロオロと叫ぶリヒテンシュタイン。
魔素奉納式がいつの間にか続行不可能となり中断したことで、ポカンとした顔をさらしていたリヒテンシュタインだったが、そこへ急報が飛び込んできたのだ。
モンスターの大規模侵攻。それも、その進軍するモンスターたちの先頭には、下級魔族の姿がいくつもみられるという報告だった。
魔族は下級でさえ、通常時でも人類にとって絶望の象徴とされる存在。
それが複数、しかもモンスターの軍を率いているという状況。
王宮は一気に騒然となった。
そこからはあっという間のことだった。
すぐさま、王宮に残っていた数少ない物のわかった宰相と僅かな有志の命令で、軍が出動する。リヒテンシュタインはその間、呆けた様子で、宰相の説明と、事後報告に頷くのみ。
速やかに出た軍だったが、魔素の網による弱体化のされていないモンスター達の侵攻速度は想像以上に速く、その強さも、軍部の想定を大きく上回っていた。
まっすぐに王都を目指すモンスターたちはあっという間に王都目前まで迫り、対応に出陣した軍は、敗北に続く敗北を繰り返す始末だった。
宰相は、すぐさま国体の保持を諦めるに至り、一人でも多くの民を逃がすことを最優先として各方面に通達を出す。
もう、ここに至っては、宰相を筆頭に、誰もリヒテンシュタインにお伺いを立てることすらしなくなっていた。完全に無駄だと切り捨てたのだ。
反逆にも等しい、その宰相達、有志の行いではあったが、既にビヨンド王国とともに自らの命を捧げる覚悟を決めた彼らは、その反逆的な行為に一切の躊躇はなかった。
そしてその喫緊の事態にあって、リヒテンシュタインはいまや完全に無視されていた。
束縛することやリヒテンシュタインの命を奪う手間すらかける価値なしとして、放置されているのだ。
そんな王座で叫ぶだけの存在となったリヒテンシュタインは、ようやく自らの重い腰を上げると、自分の目で現状を確認しようと王城の塔に登り始める。
塔に設置されたベランダから顔を覗かせるリヒテンシュタイン。その眼下には、大地を埋めるほどのモンスター達の姿があった。
ちょうど王城へと迫った元ピルグリム配下のモンスター達。その尊敬すべき将たるピルグリムの死が伝わっており、残された配下たる下級魔族たちはヒトゾクへの復讐に燃えていた。
その苛烈ともいえる檄に、モンスターたちも応えるようにして殺戮と破壊を生み出しそうとしていた。
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