第11話 反転

「遅かったかっ!」


 ツインリバーへと戻った俺たちは、その足でビヨンド王国との国境へと来ていた。

 辺りは、騒然としている。


 各国を覆う魔素の網。そのビヨンド王国の魔素の網の状態を見ただけで、ある程度、その国の現状というのはわかってしまうのだ。


「なんて、雑な網目……。不揃いで荒く、隙間ばかり……。これではなんの役にも立たないです。ああ……奉納式は失敗したのですね」


 忸怩たる表情のレーシュが隣で打ち沈んでいる。

 レーシュにしてみれば、追放されるまでに出来うる限りしていた準備が全て無駄になってしまったのだ。


 その心情を想像するだけで、俺まで無念になるほどだ。


 少しでも慰めになればと、俺は肩を震わせ俯くレーシュの背にそっと腕をまわす。


「あっ(網が、ほどけかけていますっ)」


 アルマが告げる。雑ではあれ存在していた魔素の網が、端からほどけ始めていた。


「どうやら魔族が既に首都まで侵攻済みとみて、間違いないな……。」

「反転まで、あまり、猶予はありません、ね」


 俺の腕の中できっと顔を上げると、レーシュがこたえる。


「ああ、よくて数日だろうな。魔族たちも事前準備をしての行動のはずだ」

「あの、反転とはっ? 何が起こるのですかっ?」


 セシリア=セシリアこと、セシリーが俺とレーシュをみて尋ねてくる。

 冒険者ギルドで生存の報告を済ませたセシリーは、国境へ向かうという俺たちについてきていたのだ。


 セシリーにも当然、この行動は冒険者ギルドでの依頼でない旨は伝えていた。

 それでも構わないからついていくと、セシリーは言ったのだ。

 どうも、俺たちに助けられた時から、ついていくと決めていたらしい。


 回復師たるセシリーの加入は確かにパーティーとしては歓迎だった。


 ──なんだかどんどん外聞が悪くなっていく気がする……。


 俺は冒険者ギルドでも感じたことを再度思いながら、セシリーと、同じ様に不思議そうなアルマに向かって告げる。


「二人は国の事務とかに関わったことがないから知らないよな。レーシュ、良いよな?」

「はい。二人なら信用できます。アルマさん、セシリーさん。これから伝える事はあまり口外しないようにお願いいたします」

「完全に秘密ってわけでは無いんだがな。ただ、あまり知られてはいないことなんでな」

「はい。カイン様がそうおっしゃるなら」「わ、(私もカインに従います)」


 なぜかレーシュではなく俺の方近づきながら言ってくる二人。俺はなだめるようにして手を伸ばして二人の接近を抑えると、説明を始める。


「ありがとう。二人とも、魔素の網が魔族やモンスターの侵入に際して力を削ぐものだというのは知っているよな?」

「はい」

「それは、魔族によって反転させることが出来る」

「え、(えっ、それは不味くないですか?)」

「ああ。よろしくない。とはいえ、簡単じゃなくて、それなりの手続きは沢山あるし、魔族にとっては厳しい条件もある。ただ、今回のビヨンド王国については、ことごとく達成させられてしまっていると、俺とレーシュは考えている。この網のほどけ始めた状態が反転の始まりなんだ」


 俺の説明に無言で頷くと、レーシュが補足してくれる。


「もろもろの手続きを合わせて、猶予は数日です」

「そう。それまでに、ビヨンド王国の首都へ行き、反転を妨害しなければ、ビヨンド王国は完全に魔族の領土となるとみて間違いない」


 俺が最後まで説明を終える。

 俺の話を聞いていたアルマとセシリーの顔は、不思議なことにやる気に満ち溢れているように見えた。


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