第9話 sideリヒテンシュタイン 1
リヒテンシュタインの座る王座を取り囲むように、聖女たちが祈りを捧げている。
しかし、その様子を眺めるリヒテンシュタインは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
元々が地方貴族に過ぎなかったリヒテンシュタインにとって、魔素奉納式はもっと華々しく、壮麗な儀式だとイメージしていたのだ。
しかし今、リヒテンシュタインが座っているのは、いつもの謁見の間の王座で、奉納式を讃えるために集められた貴賓もまばら。
「なんだ、この貧相さは。あの家令も逃げ出しやがって……」
儀式の最中だと言うのに、その口からは、ぶつぶつと文句が漏れる。
実家から呼び出した家令は、仕事を言いつけてすぐに消えてしまったのだ。書き置き一つ残さず出奔されたことで、リヒテンシュタインは内心怒り狂っていた。
仕方ないので、残っていた者たちに奉納式の準備をさせようと言いつけても、みな文句ばかり。
やれ、大賢者カイン様がいらっしゃらないので、やら。侍従長はこうされてた、やら。
まあ、それもリヒテンシュタインが、王としての威厳たっぷりに怒鳴り付けたらすぐに静まったのだが。
「まったく、こんな貧相な物しか準備できんとは。仕事が出来ないにもほどがある。だいたい、やつらが最初に用意した聖女はなんだあれは。よぼよぼの老人ばかりではなかったか。あんなやつら、いつ、くたばるかわからんぞ。ふぁーあ」
そう呟いて、あくびを噛み殺すリヒテンシュタイン。
その表情は貧相な魔素奉納式に完全に飽き飽きしていた。
そのため、異変に気づくのが遅れてしまう。
本来であれば王自らが聖女たちを統率し、魔素の扱いに習熟した貴族たちの補佐の元、国を守護する魔素の網を編み、国全体を覆うように展開させ直すのが、魔素奉納式の本質だった。
しかし完全にその職務を聖女たちに丸投げし、補佐するべき貴族たちの大半を追放や遠ざけたことでその助力も得られないまま、儀式は強行されていた。
その負荷が一気にのし掛かる聖女たちは一人、また一人と膝まづいたまま気絶していく。
その崩壊は始まりはゆっくりだった。しかし、広がるのは一瞬だった。
十分に網目が作られないまま国を覆うように展開された魔素の網には、無数の隙間が出来ていた。網の目が細かいほど、魔族やモンスターが侵入する際にその力を削ぎ、一度に侵入する個体数を減らすことが出来る魔素の網。
そこに大穴が空いているのだ。それも、いくつも。それはもう、なんの制限もなく、出入り自由な状態と変わらなかった。
つまり、それは既に討伐された魔族の将ピルグリムが期待していた以上の、隙だった。
ピルグリムの手配により国境付近で今か今かと手ぐすねを引いて待機していたピルグリムの配下のモンスターたちが、歓喜の叫びをあげながら、ビヨンド王国へと、一気呵成に雪崩れ込み始める。
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