第8話 セシリア=セシリア
「あの、助けて頂きありがとうございましたっ!」
ダンジョンの最奥で捕らわれていた少女から、御礼を言われる。
「僕は、セシリア=セシリアと言います。あの、長いのでセシリーと呼んでくださいっ。それにしても、カイン様、お強いんですね! 僕、憧れちゃいます……」
「ああ、どうも……」
なかなか押しの強い感じの娘だった。
強い云々は、ここでセシリーを捕らえていた魔族を倒したことを言っているのだろう。
「ただ、あの、魔族を倒せたのは、レーシュとアルマが上手く撹乱してくれたから。二人ともありがとう。……それと少し近くない?」
「これがいつもの距離ですよ、カイン様」
「そ、(そうです。油断ならないのでこれぐらいは必要かと)」
俺はそれ以上の抗弁は諦める。
そうしているうちに、楽しげにセシリーとアルマとレーシュが話し始める。
ただ、俺はその三人の会話をどこか上の空で聞いていた。
というのも、先程倒した魔族のことで、少し気になることがあったのだ。
それが戦闘前に魔族が話していた内容。
魔族語で話されていたそれを、俺は「理解力」スキルのお陰で理解していた。
その内容と、ここまでの状況を合わせて考えると、一つの結論が導かれる。
「──レーシュ、一ついい?」
「もちろんです」
俺が尋ねると、それまで楽しげに話していた三人がぴたりと会話をやめ、レーシュが満面の笑みを浮かべて俺のほうを見てくる。
アルマは完全に無表情だ。
セシリーは何かを考え込んでいる雰囲気がある。
「魔素奉納式って、明後日だよな」
「そうですね。正確には明後日の早朝ですね。何か気になることがございました?」
「いや、ちょっと古巣のことでね」
「ああ。確かにビヨンド王国の奉納式は、うまくはいかない可能性はあるかと……」
俺とレーシュがともに働いていた古巣の国。魔素奉納式という国事でも最重要なイベントの直前にレーシュを追放したリヒテンシュタインが王の国。
追放される前にレーシュのことだから出来る限りの準備はしていただろうが、それも限界があったのだろう。
国の中枢近くにいたレーシュがうまくいかない可能性を示唆するぐらいだ。よほどまずい状況なのだろう。
「とはいえ、よほどのことが無ければすぐには被害は出ないのも、よく知られてはいますが……カイン様、よほどのことがあると?」
「その可能性がある。万が一があった場合、ことは周辺国へも当然飛び火しうるしな。少なくとも確認には行こうと思っている」
「わかりました。セシリーさんを冒険者ギルドまで送ったら、ですよね」
「そうだな」
「では、お供します」
「わ、(私も、行きます!)」
俺とレーシュの会話に割り込むようにして体を乗り出してくるアルマ。
「いいのか? 冒険者ギルドの依頼じゃないから報酬はないけど」
「もちっ(もちろんです! どこまでもついていきますよ!)」
確かにアルマがついてきてくれるのはとてもありがたい。前衛として得難い人材だった。実際に魔族と戦ったときも、いつもよりアルマのお陰で疲れずに倒せたといえる。
「あのっ……」
「ああ、セシリーさん。すまない、こちらで話し込んでしまって。そう言う訳で冒険者ギルドまで送っていくが、歩けそうかな」
「はい。それは問題ないですっ」
長い時間捕らわれていたはずだが、セシリーは口調だけでなく、仕草も元気そうだった。
問題なく、歩けそうだと判断すると、俺たちは一度ツインリバーの冒険者ギルドまで戻ろうと出発するのだった。
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