第14話 sideリヒテンシュタイン3

 登った塔の最上階近くの部屋の片隅。

 リヒテンシュタインは頭を抱えてうずくまり、プルプルと震えていた。


 ベランダからの眺めに耐えられなくなったのだ。眼下で、モンスターと魔族によって行われる凶行。

 それは着実に、そして確かな足音を立てながら、リヒテンシュタイン自身の身へ降りかかろうと迫り来ていた。


 王であるはずのリヒテンシュタインの声が届く者は、この時点で誰一人おらず。

 ただただ無力感だけが、その内心に蓄積されていく。


 それは、ほんの少し前までは単なる一地方貴族として生きていたリヒテンシュタインには到底耐えきれない、現実だった。


 だから、リヒテンシュタインは目をそらした。


 現実から。


 すると、あとは簡単だった。

 現実を見ることをやめたリヒテンシュタインはただ、妄言を呟き、他者への非難を口にしながら、誰にも相手にされずに部屋の片隅でうずくまるだけだった。


 そんな僅かに残されたリヒテンシュタインの内心の安寧も、破られる時がくる。


 王都を破壊し、王城へと雪崩れ込んだモンスターたちが、リヒテンシュタインの隠れた塔へも登り始めたのだ。


 部屋の片隅でうずくまるリヒテンシュタインを最初に見つけたのは、モンスターの中でも低級とされるゴブリンたちだった。

 それは例えばカインであれば、片手で殲滅して記憶にも残らないような、雑魚たち。

 ヒトゾクを、なぶってから殺すことを本能とするゴブリンたちがリヒテンシュタインを見つけたことは、魔族にとっては幸いであり、人類にとっては不幸であった。


 四肢を潰され、散々、なぶられながらも、魔族が発見した時にはまだ、リヒテンシュタインは生きていたのだ。


 もっと殺戮と血に餓えたモンスターであれば、リヒテンシュタインは死んでいただろう。

 もしくは、侍従長として王族の近くにおり、口伝にて事情を伝えられていたレーシュか、理解力スキルにより事実を知るカインが残っていたなら、全ての責任を背負ってリヒテンシュタインの命を事前に奪っていたはずだった。


 しかし、そのあり得た可能性は全て実現することはなく。

 リヒテンシュタインは瀕死の状態ながらも魔族の手へと堕ちてしまう。


 魔素奉納式の奉納主たる王である、リヒテンシュタインの命はこの後、魔族により魔素の網の反転の起点として使われることとなるのだった。


 それまでのゴブリンによるリヒテンシュタインへの加害が、子供の児戯に思えるような、苦痛と恥辱をリヒテンシュタインへ与えながら、その命と肉体は消費されることとなった。

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