第4話 険しい道
「まあ、そう急ぐものではない。失礼だが、貴女のお名前をお伺いしても?」
レーシュが話しかけた受付嬢を制して、逆にたずねる。
丁寧なその物腰に、慌てたように名乗る受付嬢。腰を浮かせて前のめりになったレーシュの姿勢。もともと俺の真横ぴったりにレーシュが座っていたこともあって、まるでこのままだと、俺の片膝の上に間違えて座られてしまいそうだった。
「し、失礼致しました。ここツインリバーの冒険者ギルドにて、主任受付担当官を勤めますパールと申します」
「ご丁寧に。レーシュ=トリエトです。お話をお伺いする前に一度カインと相談させて頂いてもよろしいかな」
にっこりと微笑むレーシュ。受付嬢のパールさんはそれだけですっかり気圧された様子だ。
──さすが、レーシュ。すっかり主導権を握ってるわ
「それでは一度、部屋の外でお待ちいただけるかな、パールさん」
「かしこまりました」
そそくさと退室していくパールさんを待って、レーシュが再び腰かける。
──ぐっ、あの、レーシュさん。普通に俺の膝の上に座ってるんだが。
危惧したことが起こってしまう。しかしレーシュは平然とそのまま俺に向かって姿勢を変えると、話しかけてくる。
レーシュの顔の位置がさっきよりも、更に近い。膝と太ももの間辺りが温かい。
「んっ。……カイン様は、先程の受付嬢のお話を、このままお伺いされるのですか?」
「──そうした方が良いと思っている」
レーシュの問いに、俺は必死に重々しく答える。俺の理解力スキルが、今回の依頼票から始まった一連の流れが、まだ終わってないと告げ始めたのだ。
「……わかりました。それが、カイン様のご判断であれば、反対はしません」
俺の意見を尊重すると告げて、そのまま前に向き直るレーシュ。
──えっと、このままなの、レーシュさん……?
俺が困って反対側を見ると、アルマがぷっくりと頬を膨らませていた。
「ず……(ずるいと思います……)」
理解力スキルがアルマの発言を補助してくれたのに、何を言われたのかさっぱり理解出来ない。
ただ、アルマもレーシュのように少し腰を浮かせると、俺の前側に回り込んでレーシュの座っているのと逆の、俺の片膝の上に座り込む。
──う、お、おもっ……いや、そんなことを言うわけにはいかんが、さ、流石に二人は、無理無理。無理だって。俺の転移特典、外れスキルしかないのに……
俺はレーシュとアルマの意図が理解出来ないまま、ただ必死に無表情を維持しようとはする。
外れスキル「理解力」が、告げるのだ。
ただ無言で耐えるのが正解だと。
それが、最も厄災から遠き道だと。
その果てなく険しい道を、ひたすら堪え忍んでいると、受付嬢のパールさんが再び戻って来たのだろう。ドアがノックされる。
「そろそろ、よろしいでしょうか」
「か、構いません。聞かせてください」
俺の返事に入室してくるパールさん。俺たちの様子に奇異の目線を向けることなく、対面に腰かけると、パールさんは淡々と話し始める。その姿はまさに受付のプロだった。
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