第3話 精算とトラブルの香り

「カイン様、お待たせ致しました。こちらが今回の依頼の報奨および、魔石の買い取り金額となります」


 そう言って受付嬢が運んで来たトレイの上にのっていたのは、硬貨が詰まっている風の袋だった。

 それが三つ。


「この冒険者ギルドで一度にお渡しするものとしてはここ数年で最高額となります。どうぞ、お確かめください」


 そう言って俺の目の前に袋が並べられていく。重量感たっぷりだ。


 ──やっぱり明細書とかはないんだよね。まあ、仕方ないか。


 俺は事務方の性で、そんなことばかりが気になってしまう。

 とはいえ、前にいた国の冒険者ギルドも報酬の時に明細書的なものの提示も、領収書を書くこともなかったので、さほどの違和感はない。

 まあ、そんなものだろうと、俺は袋を開けると、中の硬貨を数えていく。


 レーシュも落ち着いたものだ。お互い、ある程度のまとまったお金の処理に携わることもあったのでそんなものだろう。


 一方、アルマの表情はとても面白かった。

 俺が数えた硬貨が積み上がっていく度に、驚きでポカンとしたり、羨ましそうになった顔をふるふると振って真顔になったり。


 くるくると変わる表情は見ていて飽きないほど。

 アルマの表情に気をとられて、硬貨を数えるのを間違えないように気を付ける必要があるぐらいだった。


 数え終わった額と、報酬の予想として暗算した概算値がだいたい合ってあるのを確かめて、俺は告げる。


「はい、確認しましたので、これで受け取らせていただきます。はい、半分。アルマの」


 そう言って、俺は隣に座るアルマの方に硬貨の山の半分を、机の上を滑らせて渡す。


「こっ(こんなにいただけませんっ! 今回の依頼はほとんどカインの功績ですよ。主のエンシェントイビルプラントもカインが一人で倒したようなものですし!)」

「いや、最初に取り分の割合を決めてないよね。冒険者ギルドでは慣例的に、対等な仲間同士では折半となるんだ。ですよね」

「はい、確かにカイン様のおっしゃる通り、そういう慣例がございます」

「た、(対等な仲間……。対等な仲間ですか。ではその、いただきます)」


 なぜかとても嬉しそうなアルマが、無事に受け取ったところで、これで一連のことも、ようやく終わりかなとほっと息をつく。


「それで、カイン様、折り入ってご相談がございまして……」


 そんな油断していた俺に、まだ部屋に残っていた受付嬢がおずおずと話しかけてくる。

 それは俺の外れスキル「理解力」の力を借りなくても容易にわかる、トラブルの香りがした。

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