第5話 新たなる依頼

「ここが、どうやら目的地近くのようですよ、アルマ」

「そこっ(そこ、モンスターです。レーシュ)」


 弓を油断なく構えたレーシュを庇うよう踏み込むアルマ。そのまま肩に担いだ大剣を振り下ろし、木陰から飛び出してきたウルフ型のモンスターを、両断する。


 そこに、放たれた矢が空気を切り裂く音が複数、響く。

 レーシュだ。


 一瞬で二の矢を放ち、それぞれの矢が、アルマを死角から狙った別々のウルフ型のモンスターの目を射抜く。


 あっという間に三匹のモンスターが倒されるのを、俺は手持ち無沙汰に見ているだけだった。


 ──連携、すごいな二人とも。それに、レーシュは弓の腕は貴族の嗜み程度って謙遜していたけど。明らかに一線級の腕前、だよな。あれ。


 パールから話をきいて依頼を受領した俺たちは、再び森へと来ていたのだ。

 ただ、エンシェエントイビルプラントの繁殖地があった地点からすると、ツインリバーからみて、真反対側の場所だった。


「ふう。グレーウルフが増えてきました。ここら辺でほぼ間違いないと、思うのですが」

「せい、せい(生成されたばかりの個体みたいでした。確かに近いかと思います)」


 いつの間にか、レーシュとアルマの二人は、打ち解けているようだった。さらにいえば、なぜか簡単な意志疎通までできている。もちろん、アルマの方は手振り身ぶりつき、なのだが。


「どうでしょう、手分けしてみますか?」

「りょ(了解しました。それでは、私はカインとこちらを)」

「いえいえ、カイン様は私とともにあちらを確認にいくのですよ?」


 俺の目の前にいた二人がいつの間にか俺の横に移動していた。

 身体操作スキルを持ち、背の高さもあるアルマ。モンスターを一矢で射殺す腕を持つ、レーシュ。その二人が俺の左右の腕をそれぞれ抱え込むようにして、引っ張る。


 二人とも、笑顔は、とてもにこやかだ。

 しかし引っ張られる腕への負荷は容赦の欠片もなかった。ふんわりと包まれているとは思えないほどの、引っ張り力。


 俺は流石に根をあげると、声をあげる。


「二人とも、いったん腕を引っ張るのは中止、中止っ! 」

「……かしこまりました」「は(はい)」

「ふう、……いたたた」


 俺は解放された腕をさする。


「そもそも、今回のパールさんからの依頼は初級ダンジョンへと潜った未帰還の冒険者の足どり調査、だよね」


 俺の確認に頷く二人。


「前回、俺とアルマが受けた異変の調査と合わせて、この地域全体の魔素濃度が上昇している可能性があると推察されることは、二人に伝えたよね?」


 無言で再び頷く二人。


「つまり、イレギュラーなことが起こる可能性が高い。二人ならそれも当然わかるよね」


 そっと視線をそらす二人。

 俺はここら辺にしとくかと諦める。


「──はぁ。そういう訳で別行動は無しで」

「はい!」「りょ(了解しました)」

「……そもそもさ、本当に良かったのか、二人とも。俺についてきて?」


 元気なお返事をする二人に、俺は改めて確認する。

 エンシェエントイビルプラントの不自然な発生といい、今回の初級のはずのダンジョンでの未帰還事案といい、事態はかなりきな臭い。

 そしてここが国境地域だというのも気になるところだった。


 ──魔素奉納式の加護は、どうしてもそれぞれの国の儀式場のある首都に近いほど効果が強い。それに次の奉納式直前の今が一番効果も薄れる時期だからな。ただ、もしこれが狙っているのであれば、俺たちが相対するのは単なるモンスターとは考えられない……


 俺が物思いにとらわれそうになったところで、二人から元気よくお返事がくる。


「もちろんですっ。カイン様とは今後も苦しい時も辛いときも支え合っていくとお約束しましたから」


 ばっと、腕を広げ、顔を上気させて告げるレーシュ。


「わ、た、たい、とう。なか、ま(私も、カインから対等な仲間だと言っていただけましたから。当然、対等な仲間であれば困難な依頼にも共に立ち向かっていくものです)」


 アルマが久しぶりにいっぱいしゃべる。


「……わかった。二人ともよろしくね。じゃあくれぐれも二人とも俺から遠くに離れないように、ね」


 危険を承知で俺と共にいくと言ってくれる二人に、俺も思わず絆されてしまう。ただ、せめて全力で二人のことは守ろうと決心すると、俺は今回の目的地たるダンジョンを探そうと踏み出すのだった。

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