第33話 腹パン
セシリーの杖に触れた火の玉は、まるで自らの存在を維持できないように力なく地面へと落下し、消えていっていた。
ただ、問題は一つ。
あまりにも火の玉の数が多いのだ。
よく見ると燃え盛る家屋の炎から、次々に新たな火の玉が産み出され、宙を舞いはじめていた。
──そのために、家々に火を放ったのか。いや、それだけじゃないな。本体の炎が隠れる先としても使っているとみていい。あざとい仕草の大したことのない魔族かと思ったが存外厄介な。
俺は注視しないよう、目の端で状況を捉えながら思考を続ける。
その間も、セシリーは次々に火の玉を打ち落としていた。
杖を華麗に振り、炎を背景に動くその姿は、まるで歌い舞うようだった。
しかしあれほどの炎の近くにいるのだ。当然、熱気もすごいのだろう。
その額から汗が滝のように流れはじめていた。
俺は「水滴」を操作し、少しでも助けになればとセシリーの目鼻や口を除いた全身をうっすらと水で覆っていく。
こちらをちらりと見たセシリーのほっとした表情。そして少し楽になったのだろう。その、舞いの切れが上がっていく。
杖を振るうたび、水滴が飛び散り、それが炎の光を反射してキラキラとした輝きを生み出していた。
──少しはよくなったと思うけど、いつまでも持つ訳がない。早く、敵の魔族の本体の場所を特定しないと。
「──精神汚染さえなければ、理解力スキルで場所の特定なんて容易いのにな……」
「カイン様? 何かおっしゃいましたか」
思わずもれた呟き。それを聞いたレーシュとアルマがこちらを見ている。
「いや。なんでも──あるな。レーシュ、アルマ。頼みがある」
「はい、何でも言ってください」「か、(カインの頼みなら任せて)」
頼もしい二人に、俺は覚悟を決めて告げる。
「良かった。これから俺はあの炎を見つめる。俺が変になったら正気に戻るまで殴ってくれるか?」
俺の頼みに、レーシュとアルマはポカンとした表情を浮かべていた。
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