第16話 sideリヒテンシュタイン4

 片目をゴブリンに潰され、残された片方の目を必死に動かしながら、リヒテンシュタインはいま自分がどうなっているのかを必死に見ようとしていた。


 僅かに見てとれたことと、体中から伝わる激痛から推測すると、潰された四肢を無造作に折り曲げられ、何か紐のようなもので、リヒテンシュタインの体はグルグル巻きにされているようだった。


 それは、まるで持ち運びしやすいようにまとめられた荷物のようであった。


 実際に、周囲の景色は変化し続け、体中に振動が伝わってくる。僅かな揺れでも、体に食い込む紐のような物で、リヒテンシュタインの痛覚に、激痛が上乗せそれていく。それなのに、実際にリヒテンシュタインを運ぶものたちの、リヒテンシュタインの扱いはとても雑だった。


 それもそうだろう。僅かな視野に映るのは、リヒテンシュタインを痛め続けたゴブリンたちの汚れた手。それがリヒテンシュタインの体を乱雑に運んでいるのだ。そのゴブリンたちの手が視界に映る度に、リヒテンシュタインの脳裏には自身の体へと加えられた加害がフラッシュバックする。


 激痛と、何よりも嫌悪に、声をあげようにもリヒテンシュタインの口は、すでにその役割を失っていた。全ての歯も舌もなく、喉も潰されているのだ。


 ただ、時折、その口に何かの液体が流し込まれてくる。

 それは、魔族製のポーションだった。


 もし舌が残っていたらそのあまりの苦さに、リヒテンシュタインは失神していたことだろう。そればかりは、リヒテンシュタインにとって幸いだったといえる。


 体中の骨が折れ、無数の傷跡と、穴という穴から体液を垂れ流している状態でリヒテンシュタインが生きているのは、その魔族製のポーションの効果だった。


 傷を塞ぐことなく、ただ僅かな命の灯火を繋ぐそれは、とあるモンスターの血肉から、ほぼ無加工で作られており、人族の使うポーションとは本質的に目的が異なっていた。


 そう、人族への尋問、拷問の際に、その時間を長くするためだけの、特製品だったのだ。


 そうしてリヒテンシュタインの運搬は続いていく。


 移動の振動の度に全身に死ぬほどの激痛がはしり、僅かな時間、その振動が止まると、今度はゴブリンたちのおぞましい手によって、外れた顎を乱雑に開かれ、口にポーションを突っ込まれる。

 そのルーティーンがいつ終わるとも知れないまま、リヒテンシュタインへ繰り返されていたのだった。

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