第30話 取り巻き
預言者とされる壮年の男性が見えなくなるギリギリの距離を置いて、そのあとを追う俺たち。
俺の追跡魔法は、必ずしも相手の常時視認が必要ではない。だが、見えなくなると魔力の使用量がはね上がるのだ。
コスパ重視の運用を心がけている身としては、魔力に余力を残すためにも、できるだけ対象が見える位置で、追跡したかった。
そんな俺の思惑など関係なく、預言者とその取り巻きたちは、どんどんとスラムの奥へと入り込んでいく。
レーシュたちは、少し居心地が悪そうだった。十分に戦闘の能力があっても、こういう場所は本能的に嫌なものなのだろう。
俺は預言者とされる男性だけでなく、レーシュたちの様子にも気を配りながら追跡を続ける。
「──あ、気づかれて?」
俺は思わず足を止めてしまう。
預言者とされる壮年の男性の取り巻きから、一人、人が離れると、一直線にこちらへと歩いてくるのだ。
フードを目深に被っていて人相などはわからないが、遠目にもかなり小柄に見える。
「どうします、カイン様」
「下手に取り繕うのは逆に印象が悪いだろう、な。ここで待って相手の出方をみようと思う」
「わかりました。私もカイン様のその判断に賛成です」
レーシュからの賛同。アルマとセシリーも異論は無さそうだ。
事務メインだった俺と違って、要人との対人交渉の経験も豊富なレーシュからの賛成にほっとしながら俺たちは自然な感じで立ち止まると、相手が接近してくるのを待つ。
その間に、預言者と思われる壮年の男性の姿はすっかり見えなくなってしまった。ただ、俺の追跡の魔法によると、ここからそう遠くないある建物の中へと入ったようだった。
追跡魔法を継続させる魔力コストに一人、ため息をつく。しかし当然、今の時点で追跡魔法を解除するわけにもいかず。
じりじりとしながら待っていると、ようやくこちらへと歩いて来ていた人物が俺たちの目の前まできて、話しかけてくる。
「こんにちは。何かご用でしょうか。人類の支配領域を魔族の魔手から守った、英雄の皆様」
その取り巻きの人物の声は、話す内容に反して甲高く、まるで子供のようだった。
それもそのはず。目深に被っていてフードを外すと現れたのは明きからに少女と言えるぐらい幼さの残る容貌だった。
しかし、その瞳は爛々と輝き、そして不思議なことに俺が追跡魔法の対象としている男性の頭部と似た輝きを帯びていた。
その瞳に、俺の「理解力」スキルが反応する。
「あー。君が預言者、なんだね?」
俺は理解力スキルが告げるままに、目の前の少女にそう問いかけていた。
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