第23話 ギルド長ハーリッシュ

「か、カイン様っ! 良くご無事で……。いえ、カイン様ほどのお方でした当然ですよね、なんにしてもすぐにギルド長を! カイン様たちはいつもの応接でお待ちください!」


 慌てて席をたつ、受付嬢。

 そのまま、バタバタと走り去って行ってしまう。


「い、(いつもの応接室ですって、行きましょう、カイン様)」


 俺の肩に温かな手がかけられて、俺の背中の方から顔を出してくるアルマ。


 それは少し甘えているような、周囲からの視線を気にしているような仕草。でも、少し満足そうな雰囲気もある。

 セシリーも似たような感じでどこか、落ち着かない様子だ。


「そうだな、行ってよう」


 そうして俺たちが応接室について、さほど時間をおかずに、ここツインリバーの冒険者ギルドのギルド長が現れる。


 ギルド長、ハーリッシュさんは、穏やかな感じの男装の若い女性だった。

 ハーリッシュさんは、ギルド内外で、どうやら男性で通しているらしい。俺は理解力スキルでハーリッシュさんが女性だとは知ったのだが、空気を読んでその点について突っ込むような真似はせず、その男性のふりに合わせていた。


「カイン様、ご無事のお戻り、何よりです。この度の御用向きをお伺いしても?」

「はい。今、俺が正式に所属しているのはここツインリバーの冒険者ギルドだけとなります。なので、ここでご報告をするのが筋かと思いまして伺わせていただきました」

「報告、ですか。お伺いします」


 形式上、ハーリッシさんは俺の上司、みたいな者だ。

 前世の習慣もあって、俺は敬意をもって話を進めていく。


 そもそも、前にお会いしたときもなのだが、ハーリッシュさんの、若いながらに落ち着いた応対に感心したものだ。

 さすがに荒くれ者率の高い冒険者ギルドを若くしてまとめている人物だと、その時も感じていた。


 俺はビヨンド王国に戻ってからの一連の出来事を隠すことなくハーリッシュさんに伝えていく。

 途中、神が現れ、セシリーに聖女の因子があると言われた部分は、セシリーに任せた。

 しかしセシリーも隠すことなくハーリッシュさんに話していたので、彼女もギルド長のことは信頼しているのだろう。


 一連の俺たちの話を真剣な表情で聞き終えたハーリッシュさん。


「まさに、英雄の偉業、といえるお働きですね。こたびの件は私から王への報告を上げさせていただきます。人類の支配域を守り切られたこと、私からも冒険者ギルドを代表して感謝を」

「そんな、頭をあげてください。俺は成せることを成したまでです」

「ふふ。これほどの偉業もカイン様には当然のこと、という訳ですね。何とも頼もしい。それで今回のお話の要旨は、セシリーさんの管理下にある魔素の網の引き取り先、ですか?」


 美しく整った顎に軽く指を添えた首を傾げるハーリッシュさん。

 それは、正に俺がお願いしようとしていたことだった。


「そうなんです。話が早くて助かります」

「ふむ……この場合は、諸国会議の開催を、わが国の王より呼びかけ頂く必要がありますね」

「お願いできますか」

「もちろんです。王もお慶びになられるでしょう。名誉なことですから」

「それはよかった」


 近隣の王や支配者が一堂にかいし、議論をする場を設ける諸国会議。

 俺も、その存在と実際に開催を呼び掛ける際に必要な事務手続きについては把握していた。

 開催に際しては、とにかく、手続きがめんどくさいのだ。


 絶対に自分ではその事務手続きの仕事はやりたくないなと、前に王宮勤めの時に思っていた物の、一つだった。


 そんな難題を無事に丸投げできそうで、俺はほっと胸を撫で下ろすのだった。

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