第28話 噂と忖度
翌日、冒険者ギルドへと訪れた俺たちは受付で召喚の日程が決まったか確認していた。
とりあえずまだ、召喚状は発行されていないらしい。少なくともあと数日はかかるだろう、とのことだった。
そのまま、いつもの顔馴染みに受付嬢さんに、アレス神の預言者について何か知っているか尋ねてみる。
すると、嬉々とした様子でカウンターから体を伸ばし、片手を口許にあてて話し始める。
どうやら受付嬢さんはとても噂話が好きなようだった。
「ここだけの話なんですが、その辻説法を聞いたギルドのメンバーによると本当に当たるらしいんですよ。
そこで思わせぶりにためる受付嬢さん。
「しかも……」
どうやら合いの手を待っているらしい。
俺は仕方なく合いの手をいれる。
「しかも?」
「カイン様たちのことも預言してたんですって」
「え?」
「ビヨンド王国で起きたことを事細かに、カイン様たちがお戻りなる前から、そこかしこで吹聴していたみたいですよ、その預言者って方。それでカイン様たちのこと、ビヨンド王国が魔族の手に堕ちるのを阻止した英雄ってもっぱら噂になっているの、知りません? あー。知りませんよねー。」
さもありなんと、したり顔で俺の方を向いている受付嬢さん。
「──知らない、な。皆は気づいた?」
「はい、それとなくは。ただ、噂の出所がその預言者とやらなのは初めて知りました」「うん。でも前より、僕たち、視線を向けられてるよー」「み、(皆様、遠慮してそっとしておいてくれている様子はあります)」
俺の質問に、口々に衝撃の事実を告げるレーシュたち三人。
「はぁ、少なくとも俺は英雄って柄じゃないからな……。何でか知らないけど、そっとしてくれてるのは助かるが……」
俺が受付嬢の方に向き直って話をする後ろで、レーシュたちが小声で話しているようだが、それは聞き取れなかった。
(それって、やっぱりカインが大賢者だから、なの?)(そうですね。カイン様が決してその呼び掛けに反応しないことは、こちらでも有名みたいですから。英雄と呼ばれるのも忌避するだろうと皆様思ってらっしゃるのでしょう)
「何にしても、その預言者がビヨンド王国の出来事について知っていたってのは、気になるな」
「本当にアレス神と言葉を交わせる人物だと持ち上げる人たちが、預言者の周りに集まりつつあるみたいで。ギルドとしても懸念してるんです。もしカイン様たちでお調べ頂けるのでしたら、上に掛け合って特別依頼として出せるかもしれません。どうされますか?」
俺が皆の方を振り向くと、先程までこっそり話していた素振りなど全く見せずにこちらを見ているレーシュ。
目線でどうすると問いかけると、軽く頷き返してくる。
「引き受けましょう」
俺は受付嬢さんに受託を告げるのだった。
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