第37話 リィナの平和な食事
「リィナさんも殿下の考えに乗るんですね」
その後、解散となったリィナとシャルマは昼食をとるために屋上に来ていた。バスケットを抱えたリィナはシャルマの言葉に頷く。
「殿下が貴族になった時の話ですか? なんというか。ユリウス殿下は雇い主なんですから、王宮の外まで一緒についていくのは、当たり前じゃないですか」
「そうじゃなくて、ユリウス殿下に即位して欲しいとは思わないんですか? おそらくですけど、食事は王宮の方が美味しいと思いますよ?」
それを聞いたリィナは思わず苦笑する。
「食事の質に関してはそうかもしれませんが、私は殿下が即位することがそもそも嫌です」
「そうなんですか?」
意外に思ったらしく、シャルマがそう言うとリィナは続けた。
「ええ。なんで私がディスラプターの都合がいいようにしなくちゃ、いけないんです? 私、アイツらの被害者ですよ?」
「あ……」
シャルマは思い出したように声を上げる。
「あの人達の起こした暴動は、なんであれ社会にとって価値のある行動だったと思います。ただ、それは私にとって犠牲が多すぎたんです」
何が正義で、何が悪か。正しいか正しくないかの問題ではない。
リィナ自身があの暴動を許せないのだ。あれはもはやテロに近い行動だったのだから。
「だから、私はユリウス殿下が即位せず、貴族となるのを推します。それは主の願いや命令だからではなく、私の意志で、意地です」
リィナはそうきっぱり答えた後、にっと笑う。
「それに殿下がご自分のお屋敷を持てたら、私の食生活の安全性がぐっと上がります! これは重要なことですよ!」
少なくとも、屋敷の食事は外敵が毒を入れる機会が減るし、身内の食事であるならリィナも安心して食事ができる。それはとてもいいことだ。
「もっと娯楽があればいいのですが、この時代の楽しみといえば、食事くらいですからね! 美味しいご飯があれば、私は頑張れます!」
リィナがそう言えば、シャルマは少し考えた後にぼそりと呟く。
「レイモンド公と結託すれば……いけるのでは?」
「何がいけるんですか?」
何のことを言っているんだろうか。リィナは首を傾げるとシャルマは小さく笑った。
「なんでもありません。今日のお昼のデザートはババロアを作ってみました」
「ババロア!」
夜会でシャルマが作ったババロアを食べてみたいと思っていたデザートだ。
バスケットの中を開けて、果物が入ったババロアがある。デザートは楽しみにとっておいて、紙に包まれたラップサラダを手に取った。
「いただきます!」
「はい、召し上がれ」
ちーんっ!
分析結果『おいしい』
「おいしい!」
今日もリィナの平和な食事が始まるのだった。
【連載版】悪食鑑定リィナの平和な食事 こふる/すずきこふる @kofuru-01
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