4-5
以前見たときと同じように、美しく落ち着いた王様だった。良は居心地悪く、体を左右に揺らした。
「何の用で来たのだ?」
王が尋ねる。良は語った。秀のこと、彼の家で現在生じている問題のこと、鳥族の力があればそれを解決できるのではないかということ。王は聞きながら、渋い顔をした。
「……そなたは違うのだろうが、鳥族の大多数は人間の国へ行くことができないのだよ」
「俺は行けます。俺が道を作るから、他の人たちはそれについてくればいいんです。できますよね?」
「それはそうだが……」
王は難しい顔をしたままだった。王は、良を見、言った。
「我々は違う世界の生き物なのだ。我々鳥族と、仙女と、人間と」王の眼差しは真剣だった。「人間は人間の力だけでこちらに来ることはできない。我々も、三つの世界を行き来できる力を持つものは稀だ。仙女はそれができるが、彼女らはそもそも外の世界に興味を持たない。これは――どういうことなのか、私は思うのだ。たぶん、この三つの世界は本来関わるべきではないのだろう。だから私は……そなたの申し出を受けることに気が進まない」
「でも!」良はきっぱりと言った。「でも、俺の友人が困ってるんです! 助けたいんです! 俺は……。こんなお願い、今回だけで、一度きりにしますから!」
王が良から顔をそむけ、そしてしばし沈黙した。良ははらはらしながら待った。やっぱり駄目だと言われるのだろうか――。
「……人間の世界の在り方を大きく帰るのでなければ」王が良のほうを向いた。「ならば、よいだろう」
「助けてくれるって、ことですか!?」
「そうだ。我が軍の兵士たちを連れていくといい。彼らはみな体力があり運動能力も高い。きっと役に立つだろう」
「ありがとうございます!」
嬉しかった。はじけるように、良は言った。良の笑顔を見て、王も少し微笑んだ。
これで船は助かるぞ。沈没していなければ……。ううん、きっと大丈夫だ! 希望を持とう!
良は喜び、そしてふと、真顔になって王に言った。
「……これで貸し借りはなしになりましたね」
「なんのことだ?」
王が不思議そうな顔をする。良は言った。
「あなたは俺に、申し訳なく思ってるって言いました。だからお詫びをしたいと。これがその……つまり、なんていうかお詫びなんです。俺はお詫びを受け取りました。だからあなたと俺の間にはもうわだかまりは何もない」
「いや、私はそういうつもりで、そなたの申し出を受けたわけでは……」
王は言う。そして、優しい笑顔で、良を見た。
「――鳥族の国で暮らすつもりはないのか?」
良はたじろいで、黙った。「俺は――」小さく声を出す。俺は、どうしたいのだろう。鳥族の国で暮らしたい? それとも今まで通り、姉さんたちと暮らす?
「……俺は、鳥族のことを、この国のことを何も知りません」
王の目がますますやわらかくなった。
「私が教えてやろう」
「ほんとですか? 俺は、鳥族のことを何も知りたくないというわけではなくて――」
良は室内に目を走らせた。静かな山の光景を描いた絵画、窓際の机の上には本が置かれている。鳥族の本だ。
「……もし俺が、鳥族の文字を学んだら、本が読めるようになりますか?」
「なるさ」
さらりと言った、王の優しい声に、良は動けないような気持ちになった。本が読みたいだなんて、思ったこともなかった。どうしてそんなことを言ったのだろう。この部屋には不思議な魔法でもかかっているのだろうか。
「また来てもいいですか?」
良の質問に王は笑顔で答えた。
「いいとも。そうだ、私たちの間で何か合図を決めておこう。来るたびに捕まってしまうのは、かなわないだろう?」
王が茶目っ気を見せて言った。良も笑顔になった。この王様は――いい人なのかな? 信頼してもいいのかな?
まだよく、わからないけれど。
良は回想から戻って、再び屋敷の様子を見た。まだ慌ただしく、人々が行き来している。俺はどこでも行けるんだな、とふと良は思った。
仙女の世界、鳥族の世界、人間の世界――。
でも……俺は仙女じゃないし、鳥族の国についてもよく知らない。だからたぶん、人間の世界に行きたかったんだ。二つの道があって、そのどちらもしっくり来なかったら、第三の道を探すしかないだろ?
だからここに来たんだよ。ここにいさせてほしい、って。恩返しをしたいなんて、嘘。本当は――恩を売りに来たんだよ。
でも俺は今、三つのどの世界にも行くことができるんだなと、良は愉快な気持ちで思った。それは結局どういうことなんだろう。結局どこでも中途半端なのかな。でも――でも、もしそうじゃなくて――。
考えたところで、よくわからなかった。良は小さな翼を広げると、姉たちのところへ、仙女たちのところへ帰るべく、青い空に飛び立った。
青い鳥は僕らを救う 原ねずみ @nezumihara
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