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秀は近寄って見上げた。たしかに青い小鳥がいた。秀を見ると、嬉しそうに首を下げた。
「降りておいでよ」
秀が言うと、小鳥は木の枝から、秀の近くの地面に降り立った。小鳥は辺りを見回し、人のいないことを確かめると、たちまち人間の姿になった。
見慣れた少年の姿がそこにあって、秀は嬉しくなって微笑んだ。やっぱり良だ。
「久しぶり。どうして来なかったの」
秀が尋ねると、良は少しばつが悪そうな表情になった。
「なんだか……申し訳ないことをしたな、と思って」
「気にすることないのに。僕を救ってくれたのは君と翠玉さんなんだし」
秀はいったんそこで言葉を切ると、「ところで」とあらためて良を見た。
「父さんの船が行方不明になってさ、でも今日、帰ってきたんだ。さまよっていたところを、鳥たちに助けられたって言ってた。……君たちのやったことだよね?」
良がわずかに顔をほころばせた。そしてうなずいた。
「うん。鳥族の人たちにお願いしたんだ。みんなで船を探して、そしたら幸いすぐに見つかって。で、元の航路まで案内した」
「ありがとう」
秀は笑顔で言い、良もさらに笑顔になった。秀は嬉しい気持ちで話を続けた。
「これで恩返しは終わったね」
「え?」
良がきょとんとする。秀は言った。
「羽の力を使ったんでしょ?」
「いいや、使ってないよ」そう言って良は橙色の帯をなでた。「羽の力を使ったんじゃなくて、その……知ってる人に力を貸してもらったの」
「そうなんだ」
「だから、恩返しはまだ終わってない」
きっぱりと良は言った。そして力強く続けた。
「羽はまだ残ってるんだよ。だから、何かもし願い事があれば、俺に言うといい」
「そんな……」
秀は笑い出す。良のきまじめな顔がなんだかおかしかった。
笑って、秀は言った。
「無理だよ。なんでも叶う、でもたった一度きりの願い事なんてさ! 何を頼めばいいかさっぱりわからないよ」
良は優しい笑顔で返した。
「でも、その時が来ればわかるかもしれない」
「その時が来たら、ね」
それはどういう時なんだろう、と秀は思う。僕や姉さんや、周りの大事な人たちの命がかかっているとき? そんな時、この不思議な力を持つ友人が助けてくれるのだろうか。
「あのさ」
やや気恥ずかしそうに、もじもじと良が言った。
「今日はとりあえずこの辺で帰るんだけどさ、あの……またここに遊びに来てもいいかな」
「もちろん、いいよ! どうして許可なんて取るの?」
「だって……」良は言いよどみ、けれども全部を言わずして、笑顔になった。「まあいいか」
「――もしよければさ、僕もまた仙女の国や鳥族の国に行ってみたい」
秀の申し出に、良は驚いた顔をした。
「でも、どちらの国でも恐ろしい目に会っただろう? もう関わり合いになりたくないんだと思ってた」
「まあたしかに怖い思いはしたけれど……」秀は穏やかに言う。怖い目にはあった、けれどもそれはもう過去のことだし。「今は平気だから。もっと外の世界を知りたいんだよ。鳥族の国なんて、せっかく行ったのに、ほとんど何も見てないし」
秀は良に語った。地下牢に入れられていたこと。出されたと思ったら、かごに入れられ、空を飛んだこと。
秀はちょっと顔をしかめた。
「空を飛んでいる間、恐ろしくて固く目を閉じていたんだ。だから、鳥族の国がどんなものか見ることができなかった。これって、今思うと、すごく残念なんだ」
「それもそうだな」
秀の言葉に良が笑い、良もまた、一緒になって笑った。
――――
良は再び鳥の姿になり、秀と別れた。けれどもすぐには去りがたかった。庭の木の枝に止まり、そっと屋敷の光景を眺めた。
船の帰還に、たくさんの人たちが喜んでいた。蘭花も出てきて、秀が興奮気味に蘭花をどこかに連れていった。たぶん、今回の一件の真相を蘭花に語るつもりなのだろう、他の人々に聞かれないところで。
秀にも言った通り、橙色の羽の力を使ったわけではない。ただ……頼んだのだ。鳥族の王に。
蘭花と話したことによって、鳥の力が、船の捜索に役立つのではないかと思ったのだ。そこで、鳥族の王のところへ行ってみた。
そもそも会うことができるのだろうか、という懸念があった。けれども、王はすぐに会ってくれた。宮殿の上空をうろうろしていると、兵士の鳥に捕まってしまったが、家来たちの中に良の正体を知っているものがいて、たちまち王に報告したのだ。
王は、良に、すぐに自分の元に来るように言った。
通されたのは豪華絢爛な謁見の間ではなく、王の私的な書斎だった。謁見の間に比べれば落ち着いているが、どっしりとした家具も、飾られた絵画も、きっととても高価なものなのだろう。良は人間の姿になり、王と会った。王もまた人間の姿だった。
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