2-3

 道の向こうから、二人の人間がやってきた。蘭花は少し身を固くした。それは若い女性二人のようだった。


 近づくにつれてその姿がはっきりと見えてきた。若い女性。しかもとても美しい。翠玉やその姉妹たちに似ている。着ているものも似ている。ただ、色は違う。


 その二人は藍色の濃淡の服と、黄色の濃淡の服を着ていた。寄り添うように歩き、蘭花とすれ違う瞬間にそっと会釈をした。


 会釈を返し、蘭花は歩き続ける。綺麗な人だわ。ここには綺麗な人しかいないのかしら。それに翠玉さんたちによく似ていた。


 翠玉さんの親戚か何かかしら。歳の頃もほぼ同じみたいね。


 蘭花は歩き、歩きながら考え続けた。


 私が今までここで出会った人はみな綺麗。それによく似ている。みんな女性で、みんな若くて、みんな同じような服を着て、みんな――。


 似過ぎじゃないかしら。


 ふいに、蘭花の心に不安の影がよぎった。そうよみんな似過ぎなのよ。見分けがつかないくらい。声だって似てる。それは顔が似ているからだろうけど……。


 どうして、どうしてこんな、同じような人たちばかりがいるの?


 そこから外れた人は誰もいないの!? 蘭花は辺りを見回した。平和で美しい里山の光景。けれども人っ子一人見当たらない。蘭花は急に恐ろしくなった。何か冷たいものが体を駆け抜けた。


 ここは――どういう世界なの?


 蘭花は回れ右をした。そして、秀たちへの元へと戻る。足を早めて、あまりあれこれ考えないようにして急いだ。けれども考えてしまう。ここは――仙女の世界よ。だから、不思議なことの一つや二つ普通にあるわよ。そもそもここに来るまでだって、不思議なことの連続だったじゃない!


 でも――これは不思議というより――何かおかしいわ。


 蘭花は秀たちのいる大きな木のところへたどりついた。碁はまだ続けられていた。秀は熱心に碁盤を見て、一心に考えつづけている。良も秀の近くへやってきており、興味深そうに碁盤を覗き込んでいた。


 そして少年二人の周りにいる、よく似た美しい女性たち。


 蘭花も碁盤を覗いた。ほんのわずかに秀が優勢だが、ここから先はどうなるか予想がつかなかった。




――――




 辺りはすっかり暗くなっていた。秀と蘭花は仙女の国で一泊することになった。


 二人は隣同士にそれぞれ一部屋ずつ与えられた。秀は仙女に案内されて自分に与えられた部屋に入った。清潔で美しい部屋で、すみに豪華な寝台があった。寝台にはふかふかとしたふとんがすでに整えられている。


 仙女が部屋を出ていく。秀は寝台の上に腰を下ろした。夕飯はもう食べたし、体も綺麗にしたし、あとはもう寝るばかりだ。


 なんだかすごい一日だったなあと秀は思った。いきなり良のお姉さんがやってきて。そして今は良の故郷にいるんだもの。


 故郷かな? 良は仙女ではないけど。でもここで卵から孵って成長して今もここで暮らしているのだから、故郷ということでいいよね。


 こちらに来てから、というよりも、こちらに向かっている間から、良の口数が少ないことに秀は気づいていた。ただ不機嫌そうな様子はない。姉たちと客人たちの様子を少し距離を置いて見守っているようだ。


 そもそもお姉さんたちがたくさんいるんだものね、と秀は思った。そうなると、自分はあまりでしゃばらず黙っていようか、となるのかもしれない。


 夕暮れ、秀と良は二人で庭を散歩した。良は自分が幼いときのこと、ここで育った昔の思い出のことを語ってくれた。話の中には頻繁に翠玉とその姉妹たちのことが出てきた。とても仲良くしているようだ。


 けれども――秀は一つ気になることがあった。――翠玉たちの両親はどこにいるのだろう。


 良の話にはまったく出てこなかったのだ。もう亡くなっているのだろうか。それに良の両親もどうしているのだろう。


 なぜ良は卵のときに川に流されたのだろう。鳥族は卵を川に流す習慣でもあるのだろうか。


 気になってしまう。けれどもずけずけと尋ねるのはどうかと思う。良が自発的に何か話してくれるのを待ったが、そのようなことは起こらなかった。


 日がだいぶ傾き、秀が、そろそろ家に帰るべきではないかと思っていると、翠玉が夕飯を食べていったらどうかと薦めた。秀はためらった。


「でも家族が心配していると思いますし……」

「それは大丈夫ですよ。わたくしがあなたの家の人たちに暗示をかけておきましたから」

「暗示?」

「ええ。暗示というより、幻かしら。あなたたちの幻が、今もちゃんと家にいて、いつものあなたたちのように振る舞っていますよ」


 秀は動揺した。自分たちのそっくりさんが、自分たちの代わりに家にいる? どうも不気味な気がする。それにそんなことができるなんてすごく不思議だ。でも相手は仙女なのだから――いろいろな術が使えるのだろう。


 しかし、せっかくなので夕飯をご馳走になることにした。

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