■モノローグ3

 高校に入る頃には学校での立ち位置がどういった理由によって作られるのか、中学時代を省みることで学習していた。皆慎重に立ち回る為一度作った立ち位置を下ることは簡単だが、昇る事は難しい。だから、高校で最初の友達づくりが一番大事だと言い聞かせて入学式の日を迎えた。

 友達づくりが肝心ではあったけれど、それを作るには何より資格の獲得も成さなければならなかった。

 初日の教室でどう声をかけたものかと考えていたけれど、第一声は向こうからやってきた。声を掛けてきたのは少しキツそうだがキレイな女の子だった。目に力があって、言葉の選択に迷いがないタイプ。周囲のコミュニケーションの様子を見渡して、彼女が押し付ける側の人間であることがすぐにわかった。多分私以外の人達も彼女を一見してどういうタイプの人間かというのは推測出来ていたのではないだろうか。

 私には中学3年の頃から自分の可愛さへの期待が生まれていた。けれど立ち位置も確定して長く、また色もはっきりとついた学年やクラスの中で固定した人の意識に変化が起きることはなかった。積極的でもなかったし、表立ってアピールしたわけでもないから当然の事だった。

 知らない人しかいないクラスの中で、キレイな子に話しかけられた事は嬉しかったけれど、癖っ毛である事がコンプレックスで、関係を先に進める事への躊躇いがあった。

流行を追い多数派にいる事が憧れで、憧れに近づくことが自信に成るのだと信じていた。立ち位置を替えるのであればいつかは癖っ毛とは決別しなければならないとは考えていた。ただ、勇気が無かった。

 入学して三週間くらい立った頃、漸く覚悟を決め初めて自分で新しい美容室の予約をとった。緊張しながらキラキラとした扉を開くと、待合室にはヘアカタログを広げた例のクラスメイトがいた。彼女とはクラスで一緒にいる時間は多かったが、まだまだぎこちない関係ではあった。

 顔を合わせて、偶然だねという挨拶をして髪型の話になった。

「波島はさ、少しショートにしてストパかけたら似合いそうだよね。今のウェーブかかったのも可愛いけど」

「丁度そうしようと思ってたの。長いのも面倒臭いからさ」

 似合いそうだという言葉に反射的に反応してしまい声が大きくなった。彼女が少し引いてしまい失敗したなと落ち込んだが、もう言ってしまった手前ビビっても引き返せないオーダーを美容師に伝えた。

 正直不安でいっぱいだった。ずっと似合わなかったらどうしようと不安に思いながら目を瞑っていた。けれど髪をストレートにしてもらい、湿らせた髪が徐々に切られていく様子を薄めに見て、もしかしてという期待が芽生えた。

 シャンプーして、ドライヤーを当てて軽くワックスで整えてもらうと芽生えた期待は確かに花開いた。鏡には、私自身が出せる最大の可愛さがそこにあった。思わず汗ばんだ両の手のひらを握った程だ。その瞬間私は、『可愛さ』という資格と、『可愛さ』を扱う上で必要となるもう一つの資格『自信』を手に入れたことを確かに自覚した。

 もちろん先人の例に習いどちらの資格も持っている事はおくびにも出さず、故に表立って増長するような不手際もしなかった。初めて波の上に立つように、慎重にバランスをとり、私は望む立場を確かな物にしていった。

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