一章 不特定多数の夜

 ある夜、海外の老舗の動画サイトへ一つの動画が投稿された。

 「告白」というタイトルで、投稿者にはGIGA/BYTEとあった。その動画アドレスがSNSで回って来た為、何気なくアドレスをタップした。すると海外の怪しいサイトへ誘導され、ログイン登録画面が表示された。面倒に思ったがタイトルに釣られて適当に情報を放り込み、登録を終えた。

すると真っ暗な画面ではあったが再生時間が動き始めた。やがて陽気な音楽が流れてポップなパッケージ画面が挿入される。現れたのはウサギとカエルの被り物を被った二人の制服を着た男女だった。

「初めましてー。俺たちGIGA/BYTEといいますー」

「この動画が初投稿になりますのでね、よろしくお願いしますー」

「私がウサギのギガで」

「俺がカエルのバイトといいます」

「えー、なんでこんな被り物をしているかというとですね、まあ自分ら現役高校生なんで顔バレやばいんですよ。詮索しないでもらえるとありがたいです。」

「だったらこんな動画投稿すんなって話なんですけど、まあどうしてもね、やりたいことがあって」

「この動画の趣旨はですね、タイトル通り告白動画ですね」

「告白動画って何ですか?」

「告白動画ってのはですね、世の学生諸君の淡い気持ちを人へ届けるってそういう動画なんですよ。伝えたい。俺達も今こそ伝えたい。そう思って。ちょっとニュースになったよね。要はその模倣なんだけど、思いは本物なんだよね」

「ちょっと映像が汚いけどね。幻想標準世代には伝わると信じて」

「そうだね、それではいってみましょー」

 ドウゾ。

 夜の校門。鍵の開いた窓、人のいない廊下。足元を照らされた光が旋回して長い廊下を射して伸びる。廊下やクラスは文化祭色に彩られていた。各クラスを覗いては次へと歩き、ケラケラとした浮ついた声が入る。ウサギの方がカエルを呼ぶ。ウサギは背負ったバックからラッカースプレーを四本出して二本差し出す。カエルは教室の全体が映るよう教壇前の机に置き、片目を隠すようにピースを決める。それから、グルグルと旋回する光が、スプレーが吹き出す黄色と緑のラインを追いかけてゆく。ぐるぐるぐるり。時折灯りがなくなってスプレーの噴射音だけが遠くに聞こえた。画質も音質も悪くて酔いそうになる。最後に灯りで僅かに照らしだされたのは不満顔の落描きだった。それから何の説明もなく暗転し、『fin』の文字が映し出された。


 動画が投稿され、暫くして模倣犯が出たとニュースになり世間へも広がった。動画自体はただの犯罪投稿動画で現実とネット両方のリテラシーが欠如した馬鹿な高校生の犯行だと謂われ、事実そうでしかなかったが、投稿先が海外の動画サイトであった為、投稿者を突き止めることが出来ず、犯人を突き止めるのに難航しているようだった。

 しかし、このただの文化祭荒らしの犯罪自慢動画が中高生の間で過熱し、いつのまにかアンハッピーサインと呼ばれる様になった不満顔が全国へと伝播してゆくのだった。

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