二章 文化祭後
文化祭翌週の朝、水谷は一人、駅から学校までの道程を歩いていた。
いつも同じ時間に通学路を歩けば前に高野がいたのに、今日はその背中がなかった。そして今、高野の背中をみつけられないと言うことは高い確率で休みだ確信した。
学校を沈める大鍋が、登る坂の先にでかでかと存在感を発揮している。水谷が入学し、暫くして大鍋の幻想が出現した。海洋生物以外の幻想を見慣れない日本では一時期は大騒ぎとなった。後に御薗市にいくつか出現した器の幻想をまとめてダイダラさんの落とし物と呼ばれ親しまれるよになった。大鍋は空を泳ぐ魚と同じく御薗市の視界に景色として収まるに至っている。
けれど水谷は未だにその幻想に慣れていなかった。スカイフィッシュの影響で害にあったり、何をされるでも無いのに抗えない恐怖に足が竦んだりするように、一般的に幻想には様々な特性があると言われている。しかし、大鍋には明確にこうだと言える特性は確認されていないし、水谷も悪影響を感じているわけではない。しかし大鍋の中に入って行くという視覚的な違和感もそうだが、大鍋に溜まった水に浸ってゆく時の不快感からぞわりとした気持ちの悪い感覚はいつまで立っても慣れる事はない。夏場のゴミ捨て場に忘れ去られた器に雨水が溜まっているような。腐って異臭を放つ生温い水のようで気色が悪かった。
文化祭落描き事件の疑惑が完全に払拭されていない今、疑惑の視線や好奇からくる薄っぺらい質問への対応の数を四人で割りたいところなのに、頭数が一つ減って少し気分が落ち込む。
周りは未だに文化祭の余韻を引きずっているようにクラス展示はどーで、あいつがこんなことやって、あーでこーでと話が聞こえてくる。その中に、
「やばかったって結局茂野と内村、部室の窓壊したからな、危なかったわ」「馬鹿だなーお前ら」
そんな会話があった。少し前を歩く内藤と他のクラスの人だった。文化祭で無茶なことでもやったのだろう。男ってどうして無茶したことを自慢したがるのだろうか。そしてそれが自慢になるのだろうか。水谷にはその価値観が理解できない。
ぼーっと入ってくる周囲の会話を流しながら学校へつくと、下駄箱には少路の靴がなかった。少路はいつも水谷より登校が速いので、気分は絶望的になった。もはや残るは入江しかいなかったが、チャイムが鳴り出席の確認が始まっても埋まらない入江の席を見て水谷は顔を覆った。
担任曰く三人とも風邪。そんな馬鹿な話があるのか。いやあるわけがない。
皆んな休むのだったら前日に一言欲しかった。とはいえ、皆んなが休むから休みにするっていうのも何だか恰好が悪い気がしたので、結局意地を張って結果は一緒だったのかもしれないが。
担任は教室に神妙な面持ちで入ってきた。ああ、落描き事件の件で何か言われるのだろうと思った。担任は挨拶の後に話を始めた。
「先日の文化祭で落描き事件があって、警察に捜査の方は委ねている状態ではありますが、同じ日に野球部部室で集団での飲酒喫煙行為がありました。彼らは鍵をかけていて鍵を外し終えた頃には裏の窓から逃げてしまっていましたが、もし、自分がやったと認める人がいたら後で職員室に来てください。ちなみに逃げた数人は誰かこちらで把握しているのでまあ先に、自分から言いに来たほうが処分は軽いと思いますけど。あと、そういう話を聞いたり、あの時見ていた人がいたらいつでも良いので話をきかせてください」
何故丁寧な言い方をするのだろうときっと皆思っていたと思う。が、一度仕切り直すように天を仰いだ後、
「お前らさ、ルールを守るっていう事がどういうことか分かっていない奴がいるよな。飲酒喫煙もそうだし、落描き事件もそうだ。下らない自己満足を満たすために決められたルールを破ったり浮ついた空気に集団心理で飲酒だ喫煙だをする。落描き事件は言語道断だ。器物損壊だし、何よりみんなで頑張って準備して作り上げたものを台無しにして、当日も台無しになった。ルールを破ることによってルールを守っている側が不幸を被る。こういうことが起こることを考えられない。
喫煙飲酒が誰に迷惑をかけたのかっていうかもしれない。確かに迷惑をかけていないと捉えられる側面もあるかもしれないが、ルールを破ったら停学若しくは退学になっても良いってことでよいのか?良くないだろ。碌に自分のことで責任も持てない子供が何を言っているんだって話だ。確かに高校生は大人とも子供とも言えるのかもしれないが、でも大人の真似をして煙草や飲酒を行っている時点で自分たちを子供だと言っているのと同じだと何故気づかないのか」
それから永遠と担任の説教は続く。
水谷は朝、内藤が話していた話を思い出した。十中八九内藤は逃げた内の一人だろう。本当にくだらない。
こういう話は大小あれど今まで何度かあった。そして幾度となく説教を聞いた。もうほんとうんざりだ。誰かのせいで無駄な時間が増える。大抵のクラスメイトは説教の対象になることは全く無いだろう。
よくこんなことをやっていて、文化祭の落描きを見た時に人に詰め寄れたものだと呆れる。ルールを破るのは迷惑を被らないのであれば好きにして構わないけれど、結局こうして分かりきった説教を長々と聞かせられている。その迷惑を想像出来ないのだろうし、間 違いなく気にもしていないだろう。
ああくだらないくだらない。外は空が青くて風が気持ちよいのになんで人の説教を一緒に聞かせられなければならないのか。本当にくだらない。ああくだらない。つまらない。面白いことなんて世の中本当に少ない。本当につまらない。
少しだけ開けていた窓から冷やっこい風が入った。
抜けるように空が青くて大きな口を開けたスカイフィッシュが間抜けな顔をして泳いでいる。重量が反転したらあっちに落ちて行ってしまうのだと荒唐無稽なことを考えると少しだけ愉快な気持ちになった。青を保った瞳でふと教室を見渡す。
凄くクリアに、クラスメイトの背中と、担任の顔が見えた。こんなクラス潰れてしまえば良いのに。
そう声にならない唇でつぶやいた時、何か得心の行くピースが嵌った気がした。ああ、だから落描きされたのか、と。
文化祭で作り上げた教室は今も変わらずこの景色のままだった。土日に業者が入るらしいが、それまで教室の間仕切りに描かれた落描きはブルーシートで覆われていた。
この文化祭落書き事件は二週間後、模倣され動画が拡散されてゆくが、この時はまだSNSに意見が書き込まれるだけだった。それでも賛否で大勢が対立しあっていたが、賛成派は少なく劣勢であった。しかし水谷は当然に思っている。むしろ、文化祭の日、朝この教室の惨状をみて浮かび上がった気持が、例え賛成派が劣勢にしてもまさか共感されるようなものだったとは思ってもみなかったくらいだ。けれど、賛成派が劣勢なのは何も社会のルールを逸脱している事が一番の理由であってもそれ以上に大人には考察されても決して本意が伝わることはないと幻想標準世代事態が諦めている事が大きな理由だとも思っている。
前に兄から聞いたことがある。
幻想標準世代とは、物心ついた時、既に幻想が生活の一部であった(日本で言えば御薗市に住む)現十代に対して用いられる。当然幻想標準世代に括られようと、幻想と生活を共にしてきていない同世代はそこに含まれない。誰が言ったかいつの間にか発生し定着した言葉は、後に定義されていったことから、世代と言いつつそこに含まれない者が多数いるという矛盾がある。しかしその矛盾に敏感なのは主に関東圏のその世代の少年少女等で、日本の多くの人々はその言葉の意味に対して関心は薄い。
そして幻想標準世代には、スカイフィッシュに対して抵抗値が高い事と、共感能力の高さという特徴があった。
中型以上のスカイフィッシュには『幻想原理』という超常的な影響力を持つものが多く、恐怖、驚き、不安など感情に作用するものや、既視感や未視感など認識に作用するもの、また疲労、麻痺、催眠、免疫低下など肉体に作用するものなど様々ある。そして大型のスカイフィッシュになる程に人へ与える負荷の大きい力を有している。
如何に幻想標準世代の抵抗値が高くても大型の力を耐えることは難しいが、中型程度の影響であればその抵抗値の高さをもって効果を微弱に抑えるか無効化することも個人差はあれど可能だ。
この事については幻想と共存する上で必須の知識の為広く知られている。
だが一方共感能力の高さについて日本ではあまり知られていない。それは一時期有名になった海外の論文に理由がある。論文には主に二つの内容が述べられていた。
一つは幻想が日常的に存在する空間で生活することで十代以下の少年少女達の幻想に対しての抵抗値が向上する事。
そしてもうひとつは幻想の成り立ちを想像し幻想原理を直感的に理解する力が共感能力によるものだという事が述べられている。
が、論文に幻想標準世代は他世代に比べて共感能力が高く、幻想原理を直感的に理解することが容易だと言う事については触れられていなかった。故にその論文に書かれていない事柄については一般に広まる事はなかった。
そして現在の日本では幻想拠点は豊島区幻想しか存在せず、また幻想標準世代は絶対数が少ない事から共感能力そのものの話をする機会が少なかった事。また社会的影響力をもたない未成年であった事により世に発信する力が弱かった事。
それらから、幻想標準世代の持つ特徴について正しく知るのは豊島区幻想に触れてきた本人達に限られた。
そして幻想に限らず言語で語られない有形無形の創造物の主題を感じ取る力が強いこともまた彼・彼女等しか知り得ない、のだと。
放課後、水谷は人気の薄まった教室からさて帰るかと腰をあげクラスを出た時、廊下を勢いの良い風が吹いた。
その風は廊下一体を震わせて、ブルーシートを留めた緑色の養生テープを剥がして吹き飛ばしてしまった。現れたのは今話題の記号化された不満顔だ。
誰かがルールを破ったことによって今日は無駄な説教を受けたし、文化祭では疑惑の目を向けられて非常に迷惑を被っている。けれど、これはルールを逸脱するからこそカタルシスを覚えるものだ。グラフィティ自体がアナーキーで、ルールに対してのアンチテーゼとして成立している。だから、そのグラフィティが、普段ルールを破ったり迷惑を掛けている側の人間が作った不文律へ用いられたことが皮肉で面白かった。
ルールを破っても人に迷惑をかけるな。そう自分自身も思い怒りを覚えたのに、状況が変わればあっさりと黙殺するあたり自分に都合が良い事は水谷も自覚している。
いつの間にか風邪で学校に居ないはずの高野が、水谷の横に立っていた。
「テーマはね、内在する不満、なんだって」
「内在する不満ね、そーなんだ」
心にあったものが正しく言語化されたようであっさりと受け入れることが出来た。描いた誰かは8組と2組にそういう空気を感じたのだろう。我慢ならなかったのだろう。
「いいよね、これ」
高野は独りごちるように言う。
「でも邪道だよ」
水谷は心からそう思う。それに、良いだけでもない。
「美術に邪道なんてないよ」
「そうかな」
「だけど邪道じゃなかったら刺さらなかったでしょ」
「性格悪いのかな」
「歪んだだけよ」
辛辣な回答に「おいー」と非難を浴びせるが、高野は真剣な顔を崩さずに続けた。
「少しくらい歪んでないと面白くないし、歪みのないやつなんて私は信用しないね」
「それもまた歪んでるよね」
そうだよ、と高野は肯定する。
「でもいいなと思うのは手段だとか手法の選択だけじゃないんだよね」
「どういうこと?」
「まあ、私の解釈だから」
「なに、教えてよ」
「内緒でーす。読書感想文言うみたいで恥ずかしいもん」
高野は水谷の肩を勢いよくひっぱたき不満を現わにした。水谷は擦りながら当然の疑問が思い浮かんだ。
「つか高野なんで学校にいんの?」
高野はちょっと考えたように視線を彷徨わせて、
「ああ、これ見ようと思ってさ」
「やっぱさぼりだったの?」
「家は出たんだけど、学校行く気に慣れなくてさ」
「じゃあ何で来たのよ。これ見ようと思ったの?」
「柚木と電話したんだけど、どうやら水谷が一人学校に行ってるらしいってなって。様子みに来た。今更だけどね」
水谷は「本当今更だよね」とこぼしながら高野の顔を覗き込み、薄っすらとした気恥ずかしさを抑えている口元を見つけ、
「可愛いとこあんじゃん」
言ってやると、高野は腕を組んで「うるさい。もう帰るよ」と言い放つ。不遜な態度とは裏腹に、恥ずかしさを押し留めていた壁は決壊しており、ただただ可愛い女がそこにいるだけだった。
次の日の早朝、中型スカイフィッシュが学校グラウンドに現れたとかで午前が半休になった。幻想は物理現象に左右されないので家に居たところで意味はないのだが、避難勧告は出されるし学校は場合によって休みになる。
二限からの登校となった水谷は朝食をゆっくりと食べながら、両親がつけっぱなしにしたテレビを眺めていた。
流れる情報番組ではUMA探しの特集をやっていた。町をビックフットが徘徊しているとかで商店街が盛り上がっているらしい。朝からカロリーの高そうな特集だった。
「ねえ、UMAと幻想って何が違うの?」
遅く登校して少し授業お受けてすぐの昼休み、入江の第一声だった。
「UFOもUMAも都市伝説も幻想っしょ。今日情報番組でやってたよね。夜にビックフットが徘徊してるって」
それ見て思ったの、と入江。
「でもそれらを幻想とする証拠はないよね」
「えーでも幻想発生以前以後で比べると目撃情報が圧倒的に多いじゃない。そもそもUMAとかって言葉を聞くようになったのって最近だよ」
「だから証言ばかりで決定的な証拠がないからさあ」
少路が幻想じゃないのでは派に回ったのを見て水谷は幻想なのでは派に立つ事にする。
「幻想の証拠って無理だよね映像にまともに映らないし。フェイク動画やニュースも多いじゃない。幻想系の投稿とかニュース記事のファクトチェックはガバガバだし。ニュースサイト信じてUFO呼びに冬の皇海山に登った大学生とかいたじゃん」
去年のニュースだ。高野が凄い凄いと一人大騒ぎしていたのを思い出す。普段はしがないSF研究会でしかないのに、UFOを呼ぶ事を目的に二年がかりで登山の練習し、見事頭頂を果たしたのだった。しかし皇海山にUFOを呼ぶことは叶わなかったそうだ。それもそのはず、そもそものサイト自体がフェイクであることが後に明らかになったのだ。それをまんまと信じた学生等は世間の笑いものになってしまった。しかし高野は凄い凄いと騒いでいたのを思い出した。その一念が凄い、と。
「まともに証拠が出ないから盛り上がっちゃうんでしょ。幻想自体も解明されたわけでもないし」
否定するわけじゃないよ、と少路は付け加えた。
「いやーでも、やっぱ幻想でしょ。どう考えたって」
「まあ、みんな本当のところはそう思っているんじゃない。けど知っちゃうと冷めちゃうから見ないフリしてるんじゃん。それに向こう側も都合よく正体をみせないしね」
高野が言い切ったそのタイミングを見てか一人の男子が四人の輪に寄ってきた。
「何、面白そうな話してんじゃん」
急に会話に割って入ってきたのは今年度になって転校してきた篠原悠馬だった。
「田舎から来たからさ、豊島区幻想って面白いよ。今朝のスカイフィッシュも中型だって割にはめちゃくちゃ大きいマグロだったわ」
朝、一限休校の連絡が回っているはずなのにわざわざ学校へ来たらしい。男のくせにやけにカワイらしい顔をして笑っている。
人懐っこくて、顔良し運動良し頭良しのスーパーマンみたいな奴だった。既存の人間関係の枠なんてないみたいに学年も性別も趣味趣向が違っても、どこへでも顔をつっこんでいけるのは篠原くらいだろう。
とはいえ、もちろん拒否反応もあったりして、入って直ぐに三年の先輩に目を付けられ喧嘩になったって話だった。けれど、次の日口の端を青くしていたはずなのに、今喧嘩をしたとされる先輩達とは仲良くやっているらしい。
「もう弁当食べちゃったの?」
口に入れたものを飲み込んだ入江が尋ねる。
「俺すぐ腹減るからいつも十時くらいに半分食べちゃうんだよ。昼は早く遊びたいしさ」
目を細めたくなるくらいに眩しい笑顔に手をひらひらとやって内藤の席へと向かってゆく。
おい、早く昼飯食っちまえよ。三年にゴールとられんじゃん。稲垣は先行ってるってよ。そう叫びながら内藤と机を囲んでいる輪に突撃してゆく。まてまてと内藤は弁当の中身を必死にかっこんでゆくが、そこに一瞬の間があったような気がしたのは気のせいだっただろうか。
一緒にいた他の面子が遅れて反応する。どこか固いような空気。押し返すような雰囲気があるような気がした。
「ねえ、そんな焦らせないでよ。うちら4限が伸びて昼休み入るの遅かったんだから」
東が作り笑顔と分かる顔をつくり、その笑顔に篠原悠馬が少したじろいだ。内藤も弁当をかっこみながら東の様子をみている。
虫がいた。
もしもソコに空気感というものが存在するとして、東凪側にあるエリアと篠原悠馬が持つエリアが衝突しているような、篠原悠真のエリアを受け入れない剣呑な気配があった。そしてそのエリアとエリアの境界に虫が、それを毟って破ろうと蠢いているように見えた。
グッとお茶を飲み干して内藤は席を立つと、気まずい雰囲気を打ち破るようにして、それでも笑みを絶やさない篠原を連れてクラスを出て行った。
東が内藤の背中を追って顔を横に向けた一瞬だけ表情は納得のいっていないような顰めっ面だった。
「嫌なの見ちゃった」
あーやだやだ、と高野は水筒のお茶を注いだ。
「意外と仲悪いのかな」
と入江。
「そりゃ、今まで自分たちのペースでやってきたのにさ、そのペースを握られるのは面白くないんじゃない」
と少路。
しかし、水谷は確かに今の出来事についての会話にも参加したかったが、今は別の疑念があった。その疑念は直感的に怒りに通じるものだと告げていたがまずは出来る限り明らかにした後だと自分を抑えた。
「ねえ、今虫見えなかった?」
「何、どんな虫?」
唐突な水谷の質問に、少路は直ぐに反応した。この面子で鍛えられた技なのかもしれない。
「ちっちゃい、うじゃうじゃいる…アブラムシみたいな奴?」
それだと水谷は思った。入江の表現は水谷のイメージにピタリとハマった。それから入江の言に同意する前に、
「あ、気のせいじゃなかったんだ」
私も見えた、と少路に続き高野も答えた。
「何あれ」
水谷は言うが誰も答えず、思考の沈黙が続いた。それから、
「げんそう……?」
と眉間に皺を寄せた高野が言った。
「かも。それか、スカイフィッシュみたいなUMA?」
入江も慎重に発言をする。そこで、少路が「あ」と声を出した。その突然のタイミングに皆視線を少路に集めて、何を発言するのかを待った。
「いや、ごめん。ただ水谷の、お兄さん詳しいから聞いてみたら良いんじゃないかと思って」
兄ちゃんはそんな事を少路と話をしているのかとそれはそれで気にはなったが、特に水谷は言及しなかった。
入江から何故うちの兄が詳しいのかを聞かれ、大学で歴史文化学科で伝承文学を勉強しているのだと説明した。その過程で幻想にふれることが有るのだということも。
フィールドワークと称して研究室の人間達と飛び回ったり、バイト代を古い怪しげなお面や数珠につぎ込んだりと、やっていることは謎だったが、きっと詳しいはずだった。
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