第11話 拉致された妻
「ようこそおいで下さいました」
「こちらこそお招きいただき、ありがとうございます」
「シナモンティーですどうぞ」
「ありがとうございます」
「早速ですが映像をご覧いただきましょうか」
とイヴァンチュークさんはノートパソコンに手を伸ばした。
ケーブルがテレビに繋がっている。
南晩漠の国旗が画面狭しとはためく。
膝を伸ばしたままで意気揚々と行進する軍人達が映し出された。
「映像をお送りしても良かったんですが、内容が内容なもんですから、こうして来て頂きました」
「そうですね機密が漏れたとイヴァンチュークさんが咎められても心苦しいですよね。今のご時世、ネット通信は危険です」
「画像止めますね。銀労働党総書記の左後方のサングラスかけた女性をご覧ください。奥さんではありませんか?」
「確かに妻です」
⾧年連れ添った妻を私が見間違えるはずがない。
「総書記が素顔なのにサングラスって変ですよね」
と言うイヴァンチュークさん。
全くその通りだ。
あまりの驚きに私はほとんど最初に座った時の姿勢のままで画面を見ていた。
「素顔を出しては都合が悪い事があるのでしょうね」
「南晩漠の軍事パレードの映像に青い瞳の妻が映っていたら見た人は不思議に思うからですかね」
「そうでしょうね。西洋人の顔の骨格はサングラスをしていても分かるのにそんな事までして奥さんに軍事パレードを見せたかったのですね」
とイヴァンチュークさんはため息をついた。
「優秀なロケットの開発者である奥さんを拉致してその技術をミサイル開発に使う…南晩漠のやりそうな事です。先日発射されたミサイルのデザインは奥さんの開発したロケットと酷似しています」
とイヴァンチュークさんは目を伏せながら言った。
イヴァンチュークさんは、おもむろに視線を上げた。
「設計者は立役者です。軍事パレードで奥さんの作ったミサイルがこれほどみんなの注目を浴びていると奥さんを称賛したかったのでしょうね。その称賛がこれからのミサイル開発のモチベーションになると思ったのでしょうが、奥さんの拉致が発覚するという大きなミスになりましたね。奥さんはきっと無理やり作らされてきたと思いますよ。誰が戦争の武器を喜んで作るもんですか!きっと、"作らなければ、イクライナの家族がどうなってもいいのか”と脅されていたに違いありません」
「ロケットの開発を武器に転用するなんて断腸の思いだったと思います」
と私は答えた。
イヴァンチュークさんは黙ってコクリと頷く。
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