第8話 相手を許したら戦争は無くなる

朝日がカーテンをすり抜けてキッチンに射し込む。

昨日、買ったホイップクリームを冷蔵庫から取り出してテーブルの上に置いた。

「朝だよエレナそろそろ起きようか」

と私は声をかけた。

エレナの髪は寝癖でボサボサだ。

寝ぼけまなこで起きてきた。

当たり前の日常で幸せを感じるひとときである。

道場へ行った日は帰りが遅いので、次の日は小学二年生には起きづらい。

それでも自分の機嫌は自分で取ると決めているエレナ。

「おはようパパ」

と笑ってくれる。

半分閉じたまぶたではあるが、そこがまた愛くるしい。

私は朝のルーティンで新聞を手に取った。

一面に「南晩漠(晩漠人民共和国)ミサイル発射」と言う大きな見出しが目に飛び込んで来た。

「どうしたのパパ元気がないよ」

と言うエレナの言葉で私はハッとして新聞を置いた。

じっと私を見つめている。

妻がいない生活の中で「パパまでが調子が悪くなったらどうしよう」と言うエレナの不安を痛い程感じた。

「世の中が危険な方向に進んでいるので気が滅入ってしまったんだよ」

「レシオとの戦争は終わったじゃん」

「そうだね終わった。でも世界ではまだまだ戦争をしたいと思っている人がたくさんいるんだよ」

「戦争をなくすためにはどうしたらいいの?」

と話が進む。

「相手を許したらなくなるんだよ」

と言うとエレナはポカンとした。

自分より相手が上なのが許せないって人がいなくなったらなくなるよ…と付け足した。

「じゃあパパはエレナの事、自分より下だと思ってないの?」

「たまにはケンカするけどこれだけ仲がいいのはエレナを尊敬しているからだよ」

「尊敬?」

「そう尊敬。パパにないものを持っている人はみんな尊敬しているよ」

「パパの方がずっと歳上なのに?」

「歳は関係ないよ。たまたまパパが先に生まれて来ただけなんだ」

「ふーん、なんだかわからないけど尊敬が戦争を無くすってことね」

「その通り。あの人すごいって思ったら好きになるだろ?」

「そうだね。エレナはパパが好きだから尊敬してるって事なのね。だからパパとママと私は戦争しないのね」

と言うエレナ。

ちょっとずつ幼児から成⾧している事に心が温かくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る