第9話 ゆうげのひととき

そろそろ学校に送り出さなければいけない。

時間だよカバンを持って…とエレナを促す。

「今日は良い事がありそうだよパパ」

「どうしてだい?」

「尊敬する人ばかりだったら戦争は起こらないってパパが教えてくれたから」

「そりゃ良かった、パパも役に立てたんだね」

「大いに役に立ちました」

「なんだいその言い方は」

と私は笑った。

道場で一緒に稽古しているアンナちゃんがやってきた。

いつもエレナはアンナちゃんと登校する。

門の前で

「ねぇアンナちゃん、人を尊敬したら戦争は起こらないって知ってる?」

と早速、話している。

そしてふり返り

「パパ行ってきます、早く戦争のない世界が来ると良いね」

と言って私に手をふりながら出かけた。


学校から帰ってきたエレナと食事するのは心が和む。

カレーの匂いがキッチンを包み込む。

妻が行方不明になってから自炊をするようになった。

レパートリーはカレーとスパゲティーとハンバーグのローテーションでエレナは飽きて、うんざりした時は口には出さず「パパ、今日は外食にしようよ」と言う。

心づかいの知恵がついたなあ…と思う。

今日は男の料理教室で習ってきた特製お子様カレーでいつもと違う物を食べさせようと私

はやる気満々だ。

エレナが学校から帰ってきた。

「ただいまパパ。うん?今日のカレーはちょっと匂いが違うよね」

「すごいなエレナ、今日は特製カレーだ、よくわかったね」

「美味しそうだね早く食べよう」

二人の夕飯は楽しく始まった。

食べ始めて暫らくすると電話が鳴った。

「はい、ボーンダルです」

と電話を取ると、

イヴァンチュークさんからであった。

「ああ、イヴァンチュークさん。ご無沙汰しています。妻が行方不明になった時は大変お

世話になりました。お元気ですか?」

「はい元気です、ボーンダルさんその後どうですか、奥さんの消息は?」

「チラシを撒いたりSNSで拡散したりしていますがこれと言った手応えがなかなかありませんね」

「そうですか、それはお辛いですね。私も手を尽くしていますが進展がないのが残念です」

と言う会話が続く。

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