第10話 妻の映像

イヴァンチュークさんは妻の職場の同僚である。

「ロケッティアプロ」と言うロケットの開発会社だ。

妻は女性開発者として数々の名機を創り出してきた。

「ところでボーンダルさん、今朝の新聞記事を読まれましたか?」

「南晩漠のミサイル発射の件ですよね」

「まったくもって遺憾な話です」

「イヴァンチュークさんのおっしゃる通り私も憤りを感じますよ」

と二人とも南晩漠の暴挙には落胆している。

「ところで、ある筋から南晩漠の軍事パレードの映像を入手したんですよ」

とイヴァンチュークさんは言う。

「軍事パレードの映像なんか見たくないんですが…ただ気になるシーンがありましたので、ボーダルさんにお伝えしようと思いましてね」

と一息つくイヴァンチュークさん。

「実は奥さんらしい人物がほんの少し映っているんですよ」

「妻がですか!」

と私は驚きで思わず声のトーンが上がった。

今度、日を改めてイヴァンチュークさん宅にお邪魔する約束をして私は受話器を置いた。

特性カレーは冷めてしまった。

エレナは私がいつもと違う話し方をしていたので気になっているようだ。

「妻がですか!ってパパ言ってたけど、ママのいる所が分かったの?」

「ううん、分からないけど手がかりが掴めそうな連絡をもらったんだよ」

「そうなんだ、早くママ帰ってきたら良いのになあ」

「そうだね」

と答えた私は期待と不安がないまぜになった微妙な心境だった。

「ごちそうさまでした今日も美味しかったよ~」

とエレナに無邪気に言われると少し不安は収まった。

「パパまた作ってね」

と言われるとモチベーションが上がる。


地下鉄の南出口を出ると冬の凛とした空気が胸いっぱいに入ってきた。

なかなか深呼吸ができてないなと思う。

普通の一年は早いが妻のいない一年は⾧い。

イヴァンチュークさん宅は地下鉄を出るとすぐ分かった。

質素な創りだが、設計士らしい拘りがそこかしこに溢れている。

私は門扉のインターホンを押した。

笑顔のイヴァンチュークさんが玄関の扉を開け応接室に招いてくれた。

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