第6話 パパどうして泣いてるの?
またしばしの休憩後、内回しのキックを練習する。
しっかり膝を伸ばして真横に伸ばした手のひらに今度は足の甲側を当てる。
こんな稽古をエレナはしてたんだなと思うと感無量である。
基本の稽古が終わって型の稽古に入りますと馬先生が私に伝えに来た。
ここからは個人稽古になるので、みんな自分のペースで稽古を始めるそうだ。
入門の型をヨチヨチやっている幼稚園児、中級の型に苦戦する50代のおじさん、それぞ
れが一生懸命で見ていて心地良い。
エレナはと言うと対打の稽古だ。
幼稚園年⾧組のアンナちゃんとペアを組んでいる。
二つ歳下のアンナちゃんとエレナはとても仲がいいと馬先生から聞いている。
アナスタシアちゃんがレシオの爆撃にあい天国に召されてから一年が経つ。
一緒に稽古していた二人の悲しみと悔しさは計り知れない。
それでもその逆境を乗り越えてけなげに稽古する二人を見ていると涙が溢れ出した。
エレナが私の所に寄ってきて
「パパどうして泣いてるの?」
と尋ねた。
正直にアナスタシアちゃんの事を話した。
「アナスタシアちゃんの分まで頑張るからねって思うと涙止まるよ」
と言ってまた稽古に戻って行った。
エレナの純粋さにまた泣けてきた。
もうこれ以上泣き顔は見せられないので一旦、道場の外に出た。
澄み渡る空、降りそそぐ光。
辛いことはあるけど、立ち止まっていても仕方ないわよ…と妻の声が聞こえた気がした。
心が軽くなった。
さあ道場に戻ろうと涙を拭う。
馬先生が
「相手の手首と肘を持って手前に引く」
と熱心に指導している。
「崩歩拳対打」と言う二人一組で突きや蹴りを繰り出し合う、そして突きや蹴りを受け合う型だ。
アンナちゃんが突く、エレナが受ける今度はエレナが突いてアンナちゃんが受ける。
型で順番か決まっているとは言え、素早い突きや蹴りをよけるのは難しいだろう。
お互い真剣だ。
アンナちゃんは崩歩拳の一人型通りの動きをして、それに対する技をエレナが繰り出すんです…と馬先生が教えてくれた。
アンナちゃんがエレナの手首に関節技をかけた。
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