第14話 頼りない所長

睨み返したがここでキレてはいけないと私は笑顔でこう切り返した。

「妻がここにいないことはわかりましたが、遠路遥々この南晩漠に来たのですから社会見学をさせてもらえませんか?」

「社会見学?」

「この軍事研究センターの見学です」

「こっそり写真を撮ってイクライ丿に流すつもりかね?」

「とんでもない、所持品の全てをお預けします」

「預けた物がなくなっても責任は取れませんぞ」

「構いません、お願いします。軍用飛行機の製造過程を見てみたいんです。子供の頃、軍用飛行機のプラモデルをよく作ったんです。大人になって実物を見られるなんて、めったにない機会ですから」

「私もよく作りましたよ。あなたとはそれほど歳も離れていませんから分かりますよ」

と所⾧の心が少し動いたような手応えを感じた。

この頼りない所⾧をそそのかして潜入できるまであと少しだ…と私は演技を続けた。

「所⾧は銀総書記の信望が厚いのでこのセンターを任されているんですね」

と心にも無い事を言った。

「そうなんだよ銀総書記は私の助言なしには、ここまでの地位は築けなかったんだよ」

「総書記には優秀な参謀が必要です。無謀な行動は誰かが諌めなければと思います」

「君はお目が高いね」

「お会いした時からあなたの賢さに気づいてましたよ」

とまた心にもない事を言った。

自分の二枚舌にぞっとする。

「君がそんなに軍事研究センターを見学したいのなら銀総書記に掛け合ってみよう」

「感謝します」

「少し待っていなさい」

と所⾧は内線電話に手をかけた。

「現場にはいない…はいわかりました。それならボーンダルさんを見学させても大丈夫ですね。了解です」

所⾧が電話で見学交渉をしている。

私のごますりの演技力も大したものだと心の中で自画自賛した。

「銀総書記から見学許可が出たよ。イクライノ外務省から許可が出た人間を拒否すると外交に問題が出ますよ…と言ったらあっさり納得したよ、ちょろいもんさ。私は先代の、故・銀負月前総書記の頃からの重鎮なんでね」

と反り返り言った。

「ありがとうございます」

と私は何度も所⾧の手を握り感謝の意を伝えた。

所⾧がどんどん調子に乗っていくのが分かる。

軍事研究センターは開発工場も併設しているのでそちらを案内すると言われた。

倉庫の大きな扉が開けられた。

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