第13話 でっぷりと肥えた所長

衛兵からバトンタッチした案内係の後ろについて殺風景な廊下を歩き始めた。

これまた、この案内係も一言も喋らない。

かなり廊下を進んでから、所⾧室と書かれた部屋の前に到着した。

扉を開けて中に入るとでっぷりと肥えた中年男性が椅子からずり落ちそうな格好で私を迎えた。

「はじめまして、ヤロスラーヴ・ボーンダルと申します」

と私は低姿勢で言った。

所⾧はめんどくさそうに私の頭から爪先まで撫で回すように視線を注ぐ。

「用件は何だね?」

と言う所⾧。

南晩漠は国際社会のリーダーになるべく世界各国の言語を話せるよう努力している。

所⾧は流暢なイクライノ語を話す。

「実はこの女性を探しているのですが」

と単刀直入に切り出した。

私が差し出した妻の写真を眺めながら所⾧は

「知りませんな」

と即答した。

続けて

「どういったご関係ですか?」

と聞く。

すでにイクライノ外務省から連絡済みのはずだがここで腹をたてるわけにもいかない。

「妻です」

「大変ですなあ、奥さんを行方不明にさせてわざわざ外国まで探しに来るとはよっぽど仲が悪かったんですね、お二人は?」

「人も羨むような仲むつまじさですよ」

「仲が良いのに失踪したとは解せませんな」

と言う言葉に気分を害した私は

「南晩漠に拉致されたのではないですか?」

ときっぱりと言った。

所⾧は一向に気にしていない様子で

「この写真の女性は当研究センターにはいませんな…どうぞお引取り下さい」

と写真を突き返した。

「わかりました」

と私は所⾧を睨み返した。

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