第12話 ダディ、南晩漠への旅立ち

「そこで提案ですが…私の父は外務省のアジア交流部南晩漠担当課の幹部です。直接訪問できるように交渉してみましょうか?」

「それはありがたいです。ぜひお願いします、助かります」

「掛け合ってみますね」

「それではご連絡お待ちしています」

とイヴァンチュークさんお宅を後にした。

後日、連絡があり証明書を発行してくれることになった。

待つこと一ヶ月、訪問許可証が届いた。

イヴァンチュークさんありがとうと書類を抱きしめた。

「エレナ、パパは南晩漠に行ってくるよ」

「何しに?」

「ママらしき人が南晩漠にいるらしいんだ」

「エレナも行く」

「パパ一人で大丈夫だよ」

とエレナの頭をなぜた。

西京から低麗航空機に乗り換えて有坂壌国際空港に着いた。

南晩漠軍事研究センターまではバスで約一時間の道のりだった。

かなりの⾧旅で私はほとほと疲れ果ててしまった。

あの映像の女性は本当に私の妻なのだろうか?と言う疑問が頭によぎる。

もし、別人であったなら今回の旅は徒労に終わる。

そして拉致なんてする国がなぜ国際法的に許されているのだろうか?と言う憤りが湧く。

しかしここまで来たのなら当たって砕けるしかない。

いやいやまだまだ砕けてはいけないとエレナの父である事、妻の伴侶である事を自分に言い聞かせた。

それにしても大きな建物である。

その大きさに気持ちが萎えそうだ。

私はバッグから一枚の写真を取り出した。

イヴァンチュークさんの映像を静止画にして印刷した妻の写真である。

サングラスは、はめているがその奥の悲しげな瞳が浮かび上がってくる。

「必ず救い出すからな」と私は心に念じた。

南晩漠軍事研究センターの入口は厳重に警戒されている。

さすがは軍事研究センターだけあって軍人が門の前で銃を持ち仁王立ちしている。

私はイクライノ外務省のアジア交流部南晩漠担当課から送られてきた訪問許可証を衛兵に提示した。

許可証にはホログラムが刻印されており、衛兵は特殊なセンサーを出してかざした。

「ピー」と音がしたのを確認して衛兵は無言で門を開き、進行方向を指差す。

制止されないという事は通っても良いという許可の証なのだろう。

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