第28話 チャン•ホンマンとのリベンジマッチ
「紳士は綺麗好きです。あなたを整理整頓します」
私はあきれ果て何も言わず所⾧の言葉を聞いた。
「やれチャンホンマン!」
その言葉に大きく頷く大男。
私も175センチで低い方ではないが明らかに彼を見上げなければならない。
大男はアップライトスタイルで左足に重心を乗せ軽く上下にステップを踏んで攻撃のチャンスを見計らっている。
私はステップは踏まず両手をももの前に置いて大男に背中を見せないように対峙してい
る。
チャンホンマンは大男がゆえに動作が遅い。
私はそれを逆手に取って彼の周りを右へ左へじりじりと移動し様子を見る。
大振りのロングフックを何発も放ってきた。
私はその場にしゃがみこみ、いなす。
これなら勝てる、捕まらなければ、いずれさすがの大男もスタミナ切れするだろうとかわし続けた。
これでは、らちがあかないと思ったかジャブ、ストレートクロスからのローキックと言うコンビネーションを放つ大男。
思ったよりローキックは早い。
大男のスタミナも切れるが私も同様だ。
私は俊敏な動きが取れなくなってきた。
判断力も低下している。
ジャブクロスからのローキックのワンパターンを想定して油断していたので私はチャンホンマンの後ろ回し蹴りを脇腹に食らってしまった。
パンチの遅さに比べてキックは早い。
そして威力も大きい。
私は後ろによろけ、そこに付け入られローキックをさらに2発くらった。
執拗なローキックの嵐に私は後退するしかない。
キックを受ける度に膝がガクンと来る。
何発か受け続けた時に
「パパ、独立歩だよ」
と言うエレナの声が聞こえた。
そうか必死で稽古した片足立ちだ、とすぐに実践した。
大男はローキックの空振りを続ける。
私は蹴りを見極めて腿を胸に引き付けさばき続ける。
打突技は当たっている時はスタミナの消費は少ないが、空振りは倍ほど消耗する。
何度目かの空振りの後、私は胸に引き寄せた膝のためを効かせムチの如く大男の顎を蹴り上げた。
チャンホンマンは痛そうに顎を押さえた。
しかし、ダメージはほんの少しだった。
また構え直す大男。
ローキックはもう通用しないと気づき、今度はミドルキックの乱打を続ける。
前蹴り、中段回し蹴り、サイドキックを力の限り放ってくる。
いちいち受けていては腕が壊れてしまうので私は体の捌きだけで避ける。
前蹴りは蹴り出す前に口をへの字にする癖を見破ったので避けられる。
問題はサイドキックだ。
上腕に当たったり、腰骨に当たり地味にダメージが蓄積してくる。
私の腕はパンパンに腫れて来た。
サイドキックをまともに受けた私は3メートルほど後方に飛ばされた。
だがこの距離が命びろいになった。
エレナがまたヒントをくれた。
「パパ!馬歩でサイドキックを両手ですくって受けて」
と聞こえた。
私はチャンホンマンの外側でサイドキックをキャッチした。
馬歩で両肘を曲げ丸太を抱えるような形だ。
ずしりと重い。
左手はそのままで右手を持ち換えた。
右の掌を丁度“さすまた”の形にして馬歩から登山歩に体重移動しながら大男を投げ倒した。
後方に倒れていくチャンホンマン。
床で後頭部を打ちつけ微動だにしない。
私は肩で息をする。
「まさかチャンホンマンが、やられるなんて。こうなったら総がかりで行け」
と言う所⾧の声に軍人集団が私達に襲いかかった。
エレナは大人の股の間をかいくぐったり、馬歩から登山歩に体重移動して軍人の金的に突きを入れたりしている。
子供の突きが出る位置がちょうど大人の金的に命中してバタバタ倒れる。
妻は逃げ足が早いと以前から自慢していた。
上手く軍人の追いかけにスルリ、スルリとうまくかわしている。
捕まりかけるとパンプスを脱ぎ両手に持ちパンプスビンタを食らわせる。
その攻撃を受けた者はうずくまってヒーヒー言っている。
私も馬先生の道場で教わった架式の立ち方でパンチを繰り出すと面白いほど軍人が一発で倒れる。
下半身の安定性がこれほど大切で破壊力を倍増させるとは思いもよらなかった。
胸ぐらを掴みに来る軍人もいる。
相手の右手を掴み顎を突き上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます