第18話 ダディから逃げる妻
だんだん意識が戻ってくる。
大男は左目を押さえて身をよじられせている。
失明したりしないだろうか…と心配になる。
だが、これは正当防衛だと自分に言い聞かせた。
足を掴んで私の顎に衝撃を与えたのは相手が先だ。
そんな思いで立ちすくんでいると後ろから視線を感じる。
格闘に必死になっていたので妻を追って階段を登ってきた事をすっかり忘れていた。
妻が私を見ていた。
「カロリーナ!」
と私は歩み寄った。
すると突然、妻は踵を返して走り出した。
信じられない、どうしてここまで来て妻は私から逃げようとするのか。
全速力で走る妻、それを追う私。
先程の格闘で力を使い果たしているので、100%の力が出ない。
もう一度「カロリーナ!」と呼んだ。
しかし妻は振り向きもしない。
私は最後の底力を出してあと少しで妻に追いつく所まで来た。
50メートルは走っただろうか。
すると妻は会議室と書かれた部屋のドアを開けて中に入った。
ドアノブを回すが開かない、中から鍵をかけたのだろう。
「カロリーナ、開けてくれ、どうして私を避けるんだ。話がしたい、頼むから開けてくれ」
と叫んだが何の返事もない。
背後から誰かが近づく気配がする。
振り返ろうと思った瞬間「誰か」の右腕が私の喉仏に絡みついた。
その右腕で自身の左肘をつかみロックした。
左手で私の頭を前に倒す。
明らかに「チョーク」である。
格闘オタクの私は自分は試合に出なくてもこれくらいの技は分かる。
大男に首を絞められて持ち上げられた時と同じ様な空気の薄さを感じた。
今度は抵抗しようと思ってもできない。
自分の手をこじ入れようとするが、どんどん閉まっっていく一方だ。
かろうじて首の皮膚の遊びと腰の捻りを使って締めている相手を確認した。
チャン・ホンマンであった。
首を絞められている事に対する怒りはなく、「失明していなくて良かった」と思った刹那、私は気が遠くなり落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます