第25話 妻との再会
「総書記⾧、あなたの病気は東洋医学では消渇と言って、体の中に発生した熱によって多食、多飲となってその結果によって現れたものです」
「素晴らしい、イワンさん。西洋人でそれほど東洋医学に精通しているなんて下手な東洋人より東洋人らしい」
と総書記⾧は絶賛する。
確かに自国の文化の素晴らしさに気づかない人間は多い。
「総書記⾧、最後にもう一度お脈を拝見いたします」
と言ってイワンさんは治療を終えた。
「治りそうな気がする」
と総書記⾧はマスコミに流れる映像では見たことのない笑顔で言った。
銀総書記⾧の治療は三日目にして口渇が随分治まってきた。
自分の症状が治る兆しが見えてきたので表情も明るくなった。
私は相変わらず、イワンさんについてツボの記録をしているふりをしている。
「イワンさん、あなたの腕は一流だ。今までたくさんの鍼灸師の治療を受けてきたが、効いても痛くて治療が続けられないとか、気持ちよくても全然効かないかのどちらかだった。あなたの治療は気持ちよくて少し効果が現れて来たので治療が続けられそうだ」
「光栄です」
「イワン先生と呼ばせてもらいましょう」
「過分の待遇ありがとうございます」
「イワン先生、疲れ気味の軍事研究センターの開発者達にも治療をお願いできますか?」
「喜んでお引き受けいたします」
宿舎の部屋で私とイワンさんそしてエレナはテーブルをはさんだ。
「銀総書記⾧がまさか治療の口コミをしてくれるとは思いませんでした。イワンさんは名医ですね」
「ありがとうございます。持てる引き出しを駆使して精一杯治療しただけです。まさかこんなにとんとん拍子で軍事研究センターの開発者の治療ができるとは思いませんでしたよ」
「開発者の一員であろう妻の治療ができると言う事は妻と話ができますね」
「南晩漠関係者がいなくなった隙に脱出計画の話しをしましょう」
「わかりました」
「ママに会えるんだね」
とエレナが無邪気に笑った。
「あの鉄の門扉と衛兵をどう、かいくぐりましょう?」
と私が問うと
「私に任せておいてください」
とイワンさんは自信ありげに言った。
翌日から軍事研究センターの開発者に対する往診が始まった。
ミサイルはたくさんの開発者が膝を突き合わせて、議論の後、生産されるらしい。
開発者の各部屋にこちらが回っていく。
警戒は厳重で治療中に機密が漏れないよう監視の制服の軍人が必ず二人付く。
これでは妻を救出する事はかなり難しい状況である。
一人目の治療を終えて、私達三人は次の患者の部屋へと向かう。
部屋の前には病院のように名札をスライドさせて入れるプラスチックのケースが取り付けられている。
病院患者の名札が変わるように開発者も変わるのだろう。
役にたたなくなった開発者はお払い箱になるのは必至だ。
「カロリーナ・ボーンダル」と言う名札を私は確認した。
「カロリーナ博士入りますよ」
と軍人がドアをノックした。
中から
「どうぞ」
と言う妻の返事が聞こえた。
イワンさんと私、そしてエレナが入室した時、妻は背中を向けていた。
振り返った妻は息をのんだ。
それはそうだ、イワンさんに付き添って家族が突然、自分の部屋に入ってきたのだから。
しかし賢明な妻は一瞬にして平静を装った。
軍人の手前、家族との再会を喜んだら不審がられると察知した妻は
「往診お待ちしておりました」
と落ち着いて言う。
妻はヘッドに横たわり治療が受けやすい体勢を取った。
「お脈を拝見します」
とイワンさんが言う。
「これは重篤な病が隠れています。プライベートな事を申し上げなければいけません」
と続けた。
「これからは患者さんと施術者で病気の治療方針について話したいので席を外していただだけませんか?」
とイワンさんは監視の軍人に言った。
「個人情報と言うことですか?」
「そうですね」
「わかりました。それでは私達二人とそちらのお弟子さんと娘さんは退出しましょう」
「あっ、いや弟子は私がどのように問診するかを学ぶために付き添わせます」
「そちらのお嬢ちゃんは?」
「この子も将来は治療家にさせたいので幼い頃から治療現場を見ていてほしいので残らせます。私には子供がいません。なので、この子を本当の子供のように面倒を見て、伝統的治療法を一子相伝的に残したいと思っています」
とイワンさんが言うと軍人二人は納得し部屋から出た。
ドアが閉まる音がした瞬間、エレナが妻に駆け寄って抱きついた。
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