第2話 義妹とラブホへ

 立ちんぼの現場を去り、そのまま怪しい街中へ。

 亞里栖は、スマホでラブホの場所を検索してナビを頼りに歩いていた。俺は腕を引っ張られて、抵抗できないでいた。


 結局、辿り着いてしまった。


 現場から徒歩五分の場所にあるのかよ。……あるよなぁ。


 そりゃ、近いところにラブホがあって当然だ。

 お客を確保したら、直ぐにホテルにINインして、やることやりたいだろうし。


 ……さて、到着してしまったわけだが。



「両ちゃん。……き、緊張するね。はじめて来たよ」

「俺もだよ。人生ではじめてのラブホだ。……な、なあ、亞里栖。まだ遅くはないぞ……」


「なにが?」


「なにがって。お前、俺のこと嫌っていたんじゃないのかよ」

「またその話~? もうどうでもいいじゃん。誤解だったんだから」



 そうなのかな。今日に至るまで俺たちの関係は“他人”も同然だった。いや、事実他人なんだが――けど、それでも義理の妹だ。

 母さんの妹さんの子供。

 血縁関係はないわけではない。

 親戚といえば、そうなのだ。


 だから俺は見捨てることだけは……したくなかった。



「……仕方ない。入るか」

「う、うん」



 受付を済ませ、指定された部屋へ。

 廊下を歩き、ついに到着。


 扉を開けると、かなり広くて驚いた。


「広っ! ベッドでかっ! なんか照明がピンクでエロ……」

「お、おしゃれだねぇ。普通のホテルよりも快適そう」


 人生初のラブホの相手が、まさか義理の妹である亞里栖となるとはな。

 ここまで来てしまった以上は……ヤるしかないのか。

 それを望んで俺は立ちんぼへ足を運んだはずだ。亞里栖だって承諾はしている。これからお金だってちゃんと渡すつもりだ。


「ち、ちと一服するか」

「え、両ちゃん一服って……」


 ポケットから電子タバコを取り出し、俺は口にくわえた。


「コレな」

「あれ、タバコなんて吸ってたっけ?」

「これはシーシャ。アップル味がするんだぜ」

「へー。わたしも試してみたいな」

「ダメだ。タバコは20歳ハタチになってからだ」

「それを言うなら両ちゃんは……?」


「俺はとっくに誕生日を迎えてハタチだよ」



 大学二年生である俺は、一か月前に誕生日を迎えた。

 陰キャである俺だが……そこそこに友好関係はあった。知り合いというべきか、悪友と言うべきか、ある男にシーシャをプレゼントしてもらい、俺は吸うようになっていた。

 正直、こんなモンに興味はなかったが、吸ってみるとこれが意外と良かった。脳がスッキリするというか、クセになるというか。


 おかげで落ちつけた。



「そっかー。いつの間に大人になっちゃったんだか。だから、立ちんぼにもいたんだね」


「ハタチで彼女なし。経験なしは焦るだろ」

「確かに」



 妙に納得する亞里栖。荷物を下ろし、俺の隣に座る。


 ずいぶん前から染めている金の髪。腰まで伸びるロングヘア。黒だったのなら、清楚なお嬢様にしか見えない。

 ぱっちりした瞳。長いまつ毛。

 もちもちすべすべの肌。

 スラっとした手足。


 なにもかも完璧でスタイル抜群。

 こんなに可愛いのに、立ちんぼだなんて……どうかしている。


 モデルにでもなれば良かったんだ。



「立ちんぼなんてやめろ」

「急になに?」

「亞里栖、お前は体で稼がなくても他で十分いけるだろ」

「たとえば?」

「せめて……モデルさんとかグラビアアイドルとかでいいだろ。いけるって」


「どうでもいいよ、そんなこと。両ちゃん、さっさとシよ」

「心配してやってるのに!?」


「じゃあ、両ちゃんがわたしを買えばいいじゃん」

「……ぐ。とりあえず、いくらなんだ?」


「いちまんえん」

「は……?」



 その衝撃的な値段に俺は、後頭部をアイヌの制裁棒・ストゥで殴られた気分に陥った。 なんだそりゃ、いくらなんでも破格すぎる。



「どうしたの?」

「おいおい。そんな値段でいいのかよ」

「だって、相場それくらいって聞いたけど。あ、違ったかな」

「普通は一万五千円~三万円らしい。あとゴムありの場合は倍になる感じ」


「詳しいね」


「来る前に調べたからね。大金を払って無制限契約をする人もいるらしいけどね」

「へー、すご。一万円でも大金なのに!」



 高校生からすれば、一万円は大金か。

 俺は大学生をしながらも仕事をしているから、稼いでいる。ていうか、稼がないと食っていけないんだよな。亞里栖の学費だとか生活費も掛かっているし。



「じゃ、一万円な。言っておくが、これはお前を守る為だ」

「あ、ありがと……」



 そうだ。決して亞里栖を買ったわけではない。

 だからこれ以上は――うぉッ!?


 急に抱きつかれ、俺は動揺した。


「どうした、亞里栖……」

「守ってくれたのは嬉しい。でも、ここまで来たんだもん。ヤるしかないよね……!」


「え。ヤるの?」

「うん。ヤる! はじめてが両ちゃんならいいかなって。知らないヤツよりはマシだし」「そういうことか。……良いんだな?」


「しよ」



 耳元でささやかれ、俺は撃沈した。

 亞里栖にそこまで言われては断れない。


 こりゃもう勢いでいくしかない。


 金を払っている以上は、俺は客。あとは俺の自由なんだ――!

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