第11話 義妹はどこへ消えた? 不労所得と婚約の件
最大限に警戒した。
親父が今更家に戻ってくるとか、なにか裏があるに違いない。
コイツは三年間も連絡なし。失踪していたんだ。
そもそも、このクソ親父は家庭を放棄していた。俺と母さん、そして亞里栖を捨てた最低男だ。
金のことしか頭にないはず。
だからきっと、今回戻ってきたのも借金の返済に追われているとかだろう。
「ふざけんな。帰れ」
「帰れ? 両、ここは私の家だ。帰ってきて何が悪い」
「今まで失踪していたクセに偉そうだな」
「父親なんだ、偉いに決まっている」
「だいたい、どこでなにをしていたんだ……!」
「私はギャンブル中毒でね。パチンコ、スロット、競馬、競艇、競輪、オートレース……海外のカジノなどあらゆるギャンブルに手を染めてきた。その結果、多大な借金を背負うハメになった」
「自慢気に言うな、馬鹿親父!」
なんちゅうギャンブル野郎だ。
家族を放置して、借金まみれの人生かよ。ロクでもねぇというか、最低のクズの野郎だ。こんなのと血が一滴でも繋がっていると思うと、ゾッとする。
というか、亞里栖を任せられるわけがない!
「まあいい。これからは私も一緒に住む」
「なんだって……!」
「私の家だからな、文句は言わせんぞ」
クソッ、親父の野郎……普通に家の中へ戻っていった。いや、確かに親父の家だから文句は言えない。
こうなったら今後はホテル暮らしとかするしかなさそうだ。
亞里栖を先に見つけなければ!
「分かったよ。好きにすればいいさ」
俺はそれだけ親父に言い残し、家を去った。
もう家には戻れない。
けどいい。
幸いにも収入源はある。
親父が消えてから俺は必死に収入を得ていた。主に肉体労働のバイトをして。だが、学生をしながらでは限界があった。
そこで俺は考えた。
もっと楽に稼ぎたいと。
けど、世の中そう甘くはなかった。
ネット収入、ポイ活やらいろいろ試してみたが、おこづかいが稼げる程度だった。
これは絶望的か……そう思われた時だった。
親戚のおばさんが俺に“ある話”を持ちかけてきた。
おばさんは、旦那さんを亡くしてからある事業から手を引くことに。だが、どうせならと俺にやって欲しいと、ある日家を訪ねてきたんだ。
それは『コインパーキング』だった。
駐車場の経営だった。
駅前にある駐車場なものだから、収入も安定していた。
正直、サラリーマンよりも年収はあった。
いわゆる不労所得状態になっていたのだ。
なぜ、おばさんが俺にこんな美味しい収入源を託してくれたのか分からなかった。でも、昔からおばさんとは仲がよくて俺を本当の子供のように扱ってくれ、大切にしてくれた過去があった。
おかげで俺は、大学生で大金を稼げるようになった。とはいえ、管理だとか少しは大変な側面もあるのだが、それはまた別の話。
今は亞里栖を探し出す!
◆
電話をしても出ない。
メッセージを送っても既読にならない。
亞里栖のヤツ、いったいどこで何をしているんだ? 間違って家に帰ってしまうと、あのクソ親父に捕まってしまうぞ。そうなれば一生最悪な暮らしを送らなきゃならん。
多分だが、あの親父は亞里栖のカラダで稼ごうとしている。
そんな不幸なことにはさせない……!
そこら中を走り回って亞里栖を探す。
くそ、見つからない。
どこだ。
どこにいる……?
夜になれば、あの場所にいるのか……?
公園のベンチに座り、頭を抱えながら考えた。
チクショウ!
どうすりゃいい……!
「……どうすれば」
ん?
少し離れたベンチで俺と同じように頭を抱える女性がいた。なんだ、なんだか顔色が悪そうだな。
けど、今は他人に構っている暇はない。
「……亞里栖」
「……亞里栖ちゃん」
俺も女性も『亞里栖』の名をつぶやく。
その瞬間、俺も女性も顔を見合わせた。
「「え!?」」
え!?
彼女も亞里栖を探している……のか?
「あ、あの……亞里栖をご存知なんです?」
「え……あなたは誰ですか?」
「あ、ああ……えっと、俺は亞里栖の兄です。相良 両っていいます」
名乗ると意外そうに驚き、そして納得する女性。
いったい誰なんだこの人。
黒髪のショートヘアに、ちょっと不健康そうな白い肌。服装は……フリルの黒ワンピースで可愛らしい。お嬢様っぽい雰囲気だ。ちょっと地雷系入ってる……?
「お、お兄さんですか。わたくしは
月島さん……どこかで聞いたような。
って、そうだよ。
コインパーキング事業を譲渡してくれた、おばさんの苗字と同じだ。いや、まさかな。
「よろしく。その、亞里栖とはどういう関係で?」
「高校の時の友達です」
「高校の時?」
ん? なんか変な言い方をする人だな。
「はい、そうなんです。連絡が取れなくて……」
「俺もだよ。困っていてね」
「そうでしたか。亞里栖ちゃん、最近はなにかでお金を稼いでいろいろ買っているみたいです。怪しい仕事をしていないといいのですが」
実際ギリギリやっているんだけど、それは亞里栖の名誉の為に伏せておくか。友達のようだし。
「ど、どうなのかな。それより、月島さん。君……俺とは初対面だよね?」
「ええ。そうですけど」
「そっか」
ほっ。どうやら、おばさんの娘とかではないらしいかな。
安心していると、月島さんはなにか思い出していた。
「あ。でも、相良さんって方と婚約する予定が……あれ。あなたも相良さんですよね」
「へ……」
「お母様が相良という男性にコインパーキング事業を譲ったので、その方と結婚しなさいと……そのことを亞里栖ちゃんに相談したくて。ほら、亞里栖ちゃんも“相良”って苗字で……あれ。お兄さん……」
ようやく気付いたのか、月島さんは俺を見つめた。
その相手とは俺で間違いなさそうだ。
まてまて、婚約だなんて話なにも聞いてなーい!
どうなってんの……!
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