第15話 さらばクソ親父!
まさか、こんな形で家を出ることになるとは。いや……縁を切ったという方が正しい。もうこれで親父に会うことは二度とないだろう。
母さんは行方不明で所在すら分からない。
となれば、俺と亞里栖だけで生きていくしかないのだ。
これからは月島家で新たな生活を――。
ニ十分後、坂道をずいぶんと上がった丘の上に大豪邸はあった。
こんな街を見渡せるような場所にある豪邸だなんて……。てか、月島家の
「うわ……すご」
「俺もビビったよ、亞里栖」
以前、月島のおばさんと会った時はこんな豪邸ではなかった。普通の家よりも大きい程度だった。だが今は違う。大金持ちの……人生勝ち組の家だ。
「ようこそ、相良さん。それと亞里栖ちゃん」
「ちょっと! 瀬奈ちゃん。お金持ちだったなんて初めて聞いたよ……!」
「ごめんね。内緒にするつもりはなかったんだけど、お母さまが秘密にするようにと」
「そうなんだ……」
俺ですら知らなかったことだ。
というか娘の瀬奈さんがいることすらも知らなかった。しかも、勝手に婚約の話まで進んでいるしな。どうなっているんだか。
大きな門を抜け、広い庭を歩いていく。
入った瞬間から異次元クラス。まるで日本ではないような、そんな錯覚に陥る。
花畑に噴水……異世界のお屋敷かな?
ついに月島邸の中へ。
玄関にはすでに人が立っていた。
あれは……まさか!
「つ、月島のおばさん……だよな」
「久しぶりね。両ちゃん」
あれから三年も経っている。とはいえ、そこまで大きな変化はないと思っていた。しかし、月島のおばさんは明らかに若返っていた。
凄いな。ここまで美貌を手に入れていたとは。
これでは、月島のおばさんではなく、お姉さんだ!
「こっちの金髪女子は、義理の妹の――」
「亞里栖です。よろしくお願いします」
こういう時は真面目に挨拶をする亞里栖。ああ、この圧倒的な家にビビったのか。まさか友達の家がここまでの金持ちだとは思いもしなかったんだろうな。俺もだけど。
「亞里栖ちゃんね、よろしく」
挨拶を終えたタイミングで、俺のスマホがバイブを鳴らした。……おっと、誰だろう。こんな時に連絡とか……そんな相手に覚えがない。
急いで画面を見てみると【親父】とあった。
ちょ、しまった!
ブロック設定を忘れていた。
このまま切ってやってもよかったが、ひとつだけ確認したいことがあった。
電話に出ると、親父が直ぐに話しかけてきた。
『正時……』
「なんだよ、元親父。縁は切った。他人だぞ」
『助けてくれ……』
「今更なんだよ。もうだまされないぞ。それより、母さんはどこだ?」
『別の借金取りに追われていて殺されそうなんだ。お前、今どこにいる!? かくまってくれ!』
母さんの件は無視か。まあいい。
「知るか。死ぬ気で働いて返せ」
『こ、この馬鹿息子があああああああああああ! うあ、うわあああああああああ……』
そこでブツっと電話が切れた。
どうやら本当に取り立てに追われていたらしい。
複数の闇金を利用していたんだな。
もう救いようがない。
助ける義理もなければ、哀れむ気持ちも沸かなかった。不思議なくらい俺は冷めていた。
「ど、どうしたの、両ちゃん。なんかお義父さんの悲鳴みたいのが電話越しに聞こえたけど……」
「親父は東京湾に沈んだ」
「えっ……」
もう忘れよう。
俺は親父の電話番号をブロックした。
……これでヨシ。
仕事猫ばりに人差し指で安全確認してやった。間違いなく設定完了。
もう連絡はこない。
ホッとしていると、月島のおばさんが察したのか。
「あの人、まだギャンブルに溺れていたのね」
そうつぶやいていた。
親戚にまで噂になっていたのかよ……。
恥ずかしいヤツだ。
あんなのが父親だと思うと情けない。
「おばさん、親父がとんでもなく迷惑掛けてすみません」
「両ちゃんはいいのよ。あなたは
幸は母さんの名前だ。
月島のおばさんは、母さんの姉にあたる。
だから、おばさんは俺だけは見捨てず、本当の母親のように面倒を見てくれた。今までずっと支援してもらっているし、感謝しかない。
「すみません。ありがとうございます」
「気にしないで。悪いのは全部あの男だから。私もね、あの男にだまされたことがあるから、気持ちがよく分かるの。だから、両ちゃんだけでも助けたかった」
「おばさん……俺」
「いいの。これからは
おばさんも瀬奈さんも、俺と亞里栖を歓迎してくれた。
しかし、婚約の件が言い出し辛いぞ……。困ったなあ。けど、しばらくばお世話になろう。
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