第16話 明かされていく秘密

 貴族の屋敷としか思えない月島邸。

 こんなお城のような家に住めるとは。しかも、本当の家のように自由に使っていいようだ。

 親戚なのだから遠慮は必要ないとまで言ってくれた。



「また後でね、両ちゃん」

「はい、おばさん」



 月島のおばさんはウェブ会議があるらしく、どこかの部屋へ戻っていった。たぶん、書斎かな。……やっぱり、経営者なんだな。

 でなければ、こんな豪邸に住めるはずがない。

 きっと大企業の社長なんだろうな。


「ねえ、瀬奈さん」

「なんでしょうか、相良さん」

「おばさんは、どんな会社を経営しているんだ?」

「いろいろです。詳しい事は母から聞いてください」

「なるほど、お楽しみってことか」

「すみません」


 気になるところだな。

 こんなお金持ちになった経緯を。

 歩いて部屋まで向かう。

 この邸宅いえは、部屋数が10を超えている。俺たちに貸せるだけの部屋が余裕であるようだ。


「…………」


 俺の隣を歩く亞里栖は、ずっと黙っていた。

 多分、この家の規模に圧倒されているんだろうな。俺もだけど。


「亞里栖、大丈夫か?」


「死ぬほど驚いてるよ。だって執事がいるし、こんな豪邸だし……ヤバくない!? てか両ちゃん、瀬奈ちゃんのおばさんと知り合いだったの……?」


 亞里栖には俺とおばさんの関係は伝えていない。というか、少し前まで他人のような関係だった。お互い話さなかったし、タイミングがなかったのだ。

 今こそ話す時だな。


「そうなんだ。母さんの姉だ」

「そ、そうだったの!?」

「月島のおばさんのおかげで生活費や学費が払えていたんだ。リアル大恩人だぞ」


「うそー…」


 信じられないと亞里栖は驚くばかり。

 そんな話をしながら、ついに部屋に到着。


「相良さんは、この部屋を使ってください」


 瀬奈さんが案内してくれた部屋に入ってみた。

 中はモダンなインテリアで固められ、かなり広い。まるで新居のリビングのような空間だ。


 これが部屋だと?

 信じられねえ。


 大型テレビとソファ、机と冷蔵庫が一体型になっている高級テーブルまであった。ここに住めるのかよ。最高かよ。


「す、すご」

「ああ、ヤバいな。亞里栖」


 俺も亞里栖も、ただ立ち尽くす。

 ぼうっとしていると瀬奈さんが「亞里栖ちゃんの部屋はこっちだよ」と再び案内してくれることになったが、亞里栖は立ち止まっていた。


「ちょっと、瀬奈ちゃん。その前にいろいろ話したい」

「そうだよね。いきなり私の家に連れて来られて、ビックリしているよね」

「うん。まずは情報を整理したい」


 そうだな。俺としてもまずは話し合いたい。俺のこと、亞里栖のこと。そして、月島家のことを。


 改めて自分の状況を伝えた。


 三年前、亞里栖がやってきて俺の義妹いもうとになった。しかし、直後に親父がギャンブル中毒による身勝手な失踪。母さんが親父に絶望して行方知れずに。

 同じくして俺と亞里栖の関係が急速に悪化。その理由は親父だった。アイツが仕掛けた罠だったのだ。


 それが俺の状況だ。


 亞里栖も同じように自分の状況を話した。

 元々の家族を失い、頼れる人がいなかったので俺の母さんを頼った。だが、親父の嫌がらせで俺との関係は最悪に。

 おこづかい欲しさで最近は“立ちんぼ”をするようになっていた。俺が偶然拾ってなんとかセーフ(?)で救うことができた。

 とはいえ、ラブホでやることはやってしまったんだが。俺と。


 そして、月島家。

 俺と月島のおばさんは子供のころ頃からの仲。本当の親と言われても違和感はないほどだ。それほど良くしてもらっていた。

 おかげで金銭面は本当に助かった。

 お年玉も月島のおばさんがトップクラスに多かったのを覚えている。


 コインパーキング事業も譲ってもらえて、安定した収入を得ていた。しかし、それでもギリギリの生活。そこへ親父の借金返済が降りかかってきた。一千万円だ。

 あの支払いだけは瀬奈さんに肩代わりしてもらい……なんとか乗り切ることができた。


 だが、瀬奈さんとの婚約が必要だったのだ。

 俺はそもそも、瀬奈さんの存在は全く知らなかった。紹介してもらったこともなかった。その理由はまだ分からない。



「話をまとめるとこんなところか」

「ありがとう、両ちゃん」



 理解したのか、亞里栖は落ち着いていた。



「瀬奈さんも大丈夫?」

「はい。問題ありません。私はただ……婚約のことを考えていただければ良いので」

「う、うん。それが条件だからな。けど、少し考えさせてくれ」

「いいですよ。ただひとつだけ大切な話があります」

「大切な話?」



 聞き返すと瀬奈さんは背を向けた。そして、静かに「こちらへ」と言った。いったい、なんの話だ? これ以上があるのか?


 馬鹿広い通路を歩いていく最中、俺は亞里栖に聞いた。



「なあ、亞里栖。なんで学校辞めちゃったんだよ」

「知ってたんだ」

「さっき瀬奈さんに聞いたのさ」

「体で稼ごうかなって思って……若さと美貌で楽勝だし」

「親父のせいか」

「端的に言えばそう。でも、欲しいブランド物ものあったから」

「そや、親父に二万しか渡していなかったよな」

「そういうこと。全部を渡してはいなかった。だって、全額あのお義父さんに渡すとか……馬鹿じゃん」


 その通りだ。亞里栖はせめてもの抵抗で全額を渡すことはしなかったようだ。

 ほぼ親父のせいだ。アイツがクズすぎるせいだ。

 今頃は借金取りに追われて殺されかけているだろう。もう、どうなっても知らん。


 となれば、やっぱり俺は亞里栖を幸せにしてやりたい。

 立ちんぼに戻させない為にも……俺が稼いで養うくらいしないと。


 決意が固まろうとした時だった。


 瀬奈さんの足が止まり、ある部屋の扉を開けていた。その中にいた人物に俺も亞里栖も驚愕した。


 ……な、なんで……!?

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