第17話 現る行方不明の人物

 なぜだ。なぜこの人がここに。


 ベッドで眠る人物の顔を見て俺は、目を疑った。


 ありえないだろ、それは……!


 正直意味が分からなかった。

 どうして月島家にいるんだ。



「瀬奈さん、これはどういうことだ……」

「…………」


「答えてくれ! なぜ、母さん・・・が月島家のベッドで眠っているんだ!!」



 そう、ベッドには母さんがいた。

 深い眠りについているように横になっていた。



「そうだよ。瀬奈ちゃん……この人はどう見てもお義母さんだよ」

「ごめんなさい。相良さん、それに亞里栖ちゃん」



 なぜか謝る瀬奈さん。いや……本当に意味が分からない。母さんは、ずっと行方不明で親父も居場所を言わなかったし、出て行ったとしか言わなかった。


 だが、なぜか月島家で眠っていた。


 ……というか。なんだこの医療機器の数々。

 母さんは点滴を打たれていたり、謎のホースが繋がれている。心電計やリアルタイムの容体がモニターに映し出されていた。


 なんだこれは……。


 まるで危篤きとく状態みたいな。

 そんな状況だった。



「なあ、瀬奈さん。これはどうなっているんだ」

「相良さん。あなたのお母さんは家庭内暴力DVに遭っていたんです」



「「えっ…………」」



 瀬奈さんの言葉に俺も亞里栖も固まった。


 お、おい……家庭内暴力DVって、そりゃ暴力を受けていたってことだよな。あのクソ親父から……。



「そうです。旦那さんから毎日お金を要求され、拒否すると……殴られたりしていたようです」


「そんな……。もしかして母さんは、親父のせいでこんなことに」

「そうですね。あなたのお母さんは精神的に限界を迎え、離婚を決意したようです。ですが、逆上した相良さんのお父さんは……」



 その時、母さんは殴られ気絶。

 翌日に姉に親父のことを話したそうだ。

 緊急で迎えにきた月島のおばさんは、母さんを保護した。――しようとした。


 だが、また親父が現れたんだ。


 逃げようとした母さんを執拗に追いかけた。しかし、道路に飛び出してしまった母さんは、車にかれてしまったらしい。


 月島のおばさんは、救護もしない親父の姿に驚いたという。むしろ、保険金のことを笑って話していたとか。


 それから母さんは意識不明の重体に。

 以後、月島家が専属で看護してくれることになったという。だから、母さんは行方不明になったのだ――。



 そういうことだったのかよ……。



 全部、全部……クソ親父のせいじゃないか……!



「そんな……」



 その場で泣き崩れる亞里栖。俺もショックを隠し切れない。あの親父がそこまでのゴミクズだとは思いもしなかったからだ。

 元々ギャンブル中毒でどうしようもないと思ったけど、それ以上だった。

 しかも、母さんの保険金も狙っていたようだし……まさか、最初からそのつもりで……!


 くそ、くそ、くそ!


 血が出るまでブン殴っておけばよかった……!



「亞里栖ちゃん、ごめんね。苗字は一緒だったから、不思議だとは思ったけど……まさかお義母さんだとは思わなかったから……」



 瀬奈さんはそう謝る。

 それもそうか。瀬奈さんは俺のことすら知らなかったようだし、ほとんど聞かされていなかったんだろうな。

 俺と亞里栖が義理の兄妹だと知ってから確信したのだろうな。


「そうか。でも、瀬奈さん。おかげで母さんはまだ生きているんだよな……!?」

「はい。専属のお医者様が毎週診てくださっています。現在、意識不明ですが、いつか目を覚ますと信じています」



 命があっただけで良かった。

 でも酷い有様だ。

 腕や顔にはあざが残っている……。


 親父の野郎、なんてことを。


 アイツは悪魔だ。


 てか、捕まらなきゃいけない人間だ。犯罪者だ。俺はあの親父をもう親父とは思わない。アイツは赤の他人。



 相良さがら はじめ



 あの男は“敵”だ。


 取り立てに殺されていなければ、次は必ず捕まえて警察に突き出してやる。


 そして、俺はあんな男だけには絶対にならないッ!


 絶対に……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る