第14話 富豪の月島家へ引越し

「分かった。婚約しよう」

『ありがとうございます。では、直ぐに伺います』

「ああ、住所は――」


 しばらくして呼び鈴が鳴った。早ッ!

 もう月島さんが到着したのか。


「本当に大丈夫なんだろうな、兄ちゃん」

「大丈夫です」


 取り立ての人たちには待ってもらい、俺は玄関へ。

 するとそこには月島さんが立っていた。


「わざわざありがとう、月島さん」

「え……瀬奈せなちゃん! なんで!?」


 俺が礼を言うと、一緒に来た亞里栖が驚いていた。まさか俺と月島さんが顔見知りだとは思わなかったらしい。いや、当然か。


「久しぶりね、亞里栖ちゃん」

「どういうこと……?」

「詳しい話はあとで。それよりも、この紙袋を受け取ってください」


 紙袋を受け取る俺。

 って、この紙袋ってスターバ●クスじゃん!

 中身はコーヒーとかフラペチーノではなく、一千万円。

 こんな短期間で現金を用意するとは月島家恐るべし。……金持ちなのは知っていたけど、ここまでとはな。

 そりゃ、駐車場を俺にくれるだけの余裕はあるわけだ。


 てか、一千万円をスタバの紙袋に入れるものなのか……? いや、細かいことはいいか。今は助けて貰ったことに感謝だ。


「感謝する、月島さん」

「いえいえ。あと以降は瀬奈せなと呼んでください」

「分かった。瀬奈さん!」


 リビングへ戻り、俺は黒服の二人に一千万円をテーブルの上に突き出した。



「なんだこのスタバの紙袋は……? ふざけているのか?」

「この中に現金一千万円が入っている。確認してくれ」


「そんな馬鹿な。こんな短時間で用意できるものか! 金ってのはな、命より重いんだぞ。一千万稼ぐのにどれだけの労力が掛かると思っている。お前如きが簡単に得られる金額では――へ」



 信じられないと凄んでくる十字傷の男。

 だが、中身を見て目をテンにしていた。もう片方のサングラスの男も驚愕して、言葉を失っていた。



「言ったろ。一千万円だって」

「し、しかしだな。本当にあるか疑わしい。数えさせろ!」

「好きにしてくれ」



 男たちはいそいそと札束を数えていた。

 それにしても一千万円か……あんなに分厚いんだな。スマホで調べると厚みは10センチらしい。あれが一千万円の重みかぁ。さすがの俺もあんな現金は所持したことがない。

 ほとんど生活費やら、自分の学費。亞里栖の学費に消えているのだ。


 こんな親父の借金肩代わりという不本意な形で、一千万円を拝むだなんて……。


 しばらくして、黒服たちの集計が終わった。



「――確かにキッチリ一千万円だ」

「ああ、兄貴。しかし、トゴは美味すぎですぜ」



 ト、トゴォ!?

 つまり、10日で5割の利息ってことだよな。違法すぎるだろ! いや、闇金なのだから……そういうものだろうけど、なんちゅう暴利。


 こんなのあっと言う間に借金が膨れ上がるじゃないか。

 そりゃ一千万円だなんて大金になるわけだよ。てか、元金いくらだよ。ふざけんな!



「も、もういいだろ」

「確かに問題ない。では、我々は撤収する。今後もご贔屓ひいきに」


「ちょっと待ってくれ。今後は親父から頼まれても貸すな。あと連帯保証人にはならないし、あの馬鹿親父とは縁を切るからな! 他人だ。もう巻き込まないでくれ」


「いいだろう。今回の一括返済に免じて、今後ヤツだけに取り立てるようにする」

「ああ、名前を書かれても無効だ」



 いっそ苗字を変えてしまおうかと悩むほどだ。……そうだな、それこそ月島家に……ありかもしれない。でも、まだ悩みたい。


 ようやく男達は帰った。



「…………死ぬかと思った」

「そうだね、両ちゃん。わたし、心臓がバクバクしてる……」



 亞里栖はぐったりしていた。

 助けられて良かった。だが、親父のせいで……なんだか、いろいろ失った気がする。


 この家にいるのもマズイな。


 また親父が戻ってくるかもしれないし、第二の取り立てとか来たらもう対処できん。



「よし、ひとまず荷物をまとめるぞ、亞里栖」

「え、もう?」

「早くしないと、またワケの分からん連中がやってくるかもしれない」

「そうだね……。うん、分かった」



 瀬奈さんには少し待ってもらい、俺と亞里栖は荷物をリュックやカバンに詰めまくった。全部は無理だが必要最低限でいい。


 洋服、生活用品などなど。まあ、俺はもともとミニマリスト体質なので、そこまで荷物は多くない。

 一方の亞里栖は、服やブランド物のアイテムが多い。こりゃ大変だ。



「亞里栖ちゃん、表に車を停めているのでトランクへ入れてください」

「ありがとう、瀬奈ちゃん!」



 車はどうやら、専属のドライバーが待機しているようだ。そんなのまでいるのか、月島家。もしかして、月島のおばさんとそんなに会わない内に富豪になっていたのだろうか。


 なんとか荷物をまとめ終え、瀬奈さんの車へ乗り込んだ。



「はじめまして。専属ドライバーの武蔵むさしと申します」



 これは驚いた。若い男性だったとは。

 二十代後半だろうか、執事の格好をしている。



「俺は相良 両です。こっちの義妹は亞里栖。よろしくお願いします」

「両様と亞里栖様ですね。瀬奈お嬢様がお世話になっています。これからも仲良くしていただけると幸いです」


 まてまて、お嬢様って!

 しかも、この執事めっちゃしっかりしている! マジのヤツだ。


「武蔵、家までお願い」

「分かりました、瀬奈お嬢様」


 車は静かに発進。月島家を目指した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る