第13話 一千万円の婚約
急いで家へ向かった。
多分きっと亞里栖がいるはずだ。
全速力で走って家へ到着。
玄関を開けると、亞里栖の靴があった。……やっぱり行き違っていたか!
焦りながらもリビングの前まで足を運ぶ。すると話し声が聞こえた――。
「お前の体の価値は、たった二万程度か。もっとたくさんの男と寝て稼げ……! 今月以内に百万は必要だ」
「…………」
こっそり部屋の中を伺うと、亞里栖が震えて顔を青くしていた。
親父のヤロウ……! こんなの脅しじゃねえか! 義理の娘だからって、これはやりすぎだ……!
亞里栖を連れ出すしかない。
でなければ、親父の支配で亞里栖は潰れてしまう。
「そうだ、亞里栖。お義父さんの性欲も処理してくれないか」
「え……」
「ほら、私がこんなんだから母さんは逃げ出しちゃってね。最近、ご無沙汰なんだよ」
親父のヤツ、今度は性欲を満たすために亞里栖を……!
今にも襲い掛かろうとしていたので、俺はブチギレて乱入した。
「親父、なにやってんだ……!!」
「両。なぜここに……」
「亞里栖を取り戻しに来たんだ!」
「取り戻しに? なにを言っている。ここが我が家だろう」
「全部聞いたぞ。親父、亞里栖を使って稼がそうとしているな。そんな悪行は絶対に許さん」
「そうか……知ってしまったか。なら――」
俺の方へ向かってくる親父は、いきなり突き飛ばしてきた。壁に激突し、俺は倒れた。……痛ぇ。
「……ぐっ!」
「両ちゃん!」
亞里栖が叫んで駆け寄ってくる。
だが止めた。
「来るな! まずはクソ親父を止める!」
「ほう。この私を止める? このバカ息子が!!」
「……っ!」
かなり強い蹴りが飛んでくるが、俺は回避した。
親父の足は壁にブチ当たり――自爆。
「がああああああああァッ!?」
勝手にダメージを負い、床で転げ回っていた。アホか……! だが、隙が生まれた。今のうちに亞里栖を拾う!
「来い、亞里栖! 逃げるぞ!」
「う、うん……。で、でも……足が震えて……」
「ちょ、マジかよ!」
緊張や恐怖で亞里栖の腰は抜けてしまっていた。
ええい。こうなったら、背負ってでも……!
俺は、亞里栖をおんぶした。
これでいい。
「……こ、これで行くの? 恥ずかしいよ……」
「ワガママ言うな。親父から逃げる為だ。行くぞ」
「うん」
親父は未だに足の痛みに
もうこれで会うこともないだろうよ。
「……ま、まて。両……」
「なんだ、親父。悪いが、縁を切らせてもらうぞ。俺は亞里栖と一緒に生活する」
「このままでは東京湾に沈むことになるぞ……」
「誰が沈むって……?」
「私だ」
「親父かよッ!」
「両、これは本当だ。まもなく来るだろう……“ヤツ等”がな」
「ヤツ等?」
直後、玄関のドアを乱暴に叩く音が響いた。
ま、まさか借金取りィ!?
親父のヤツ、マジで闇金からも借りていたのかよ。もう手に負えない。最悪だ……!
「さあ、どうする……両! 玄関へ向かえばヤツ等が止めるだろう。お前も無関係ではないからな!」
「ふざけんな、親父。俺と亞里栖は無関係だ!」
「それはどうかな」
「は? 知るか!」
もうどうでもいい。こんな場所に留まる理由もない。親父のことは自業自得。自分で解決しやがれ。
亞里栖を連れ、玄関まで向かう。
すると、イカツイ形相の二人組の男が立っていた。
黒スーツにサングラス、もう片方も同じスーツだが素顔。ただし、左頬に大きな十字傷があった。幕末の人斬りかよ!
こ……怖すぎだろッ!
「相良さんだよなァ?」
ギロッと俺をにらむ取り立て。
なんちゅう迫力だ。人殺しの目だぞ……怖ぇ。
「え、ええ……。でも、借りた本人ならリビングにいます。俺たちは関係ないです」
「いや、相良 両。あんたも関係ある」
「な、なんで!?」
「連帯保証人だ」
「連帯保証人!? いつの間に!?」
男が契約書を見せつけてくる。そこには親父と俺の名前が書きこまれていた。な、なんだって……! 親父のヤツ、勝手に俺の名前を使ったのかよ!
てか、使うなよ!!
「ほら、成人の年齢も変わったろ。違法ではないのさ」
いや、闇金の時点で違法だろうが。
なんてツッコミも出来るはずがない。相手が怖すぎる。
「し、知らないですよ。俺が署名した覚えはないです。親父から取り立ててくださいよ」
「あァ!? 知らないでは済まされねえんだよなァ! そこの女の体を使ってでも払ってもらうしかねェぞ!」
また亞里栖か。どいつもこいつも!
だが、義妹だけは俺が守る。
それに、これはお金で解決できる問題だ。
まずは返済額がいくらか聞いてみるか……。
「いくらなんです?」
「一千万円だ」
「「い、いっせんまんえん!?」」
俺も亞里栖も驚いて声を上げた。
親父のヤツ、なんて額を借りやがったんだよ。しかも、闇金で……! アホだ! 馬鹿だ! ギャンブル中毒が!!
「とにかく中で詳しい話をしようや、兄ちゃん」
「……くっ」
リビングへ向かうと、なぜか親父の姿がなかった。ちょ、え……まさか!
「あれ、お義父さんは……?」
「ああ、亞里栖。アイツ、逃げやがった!」
風呂やトイレ、二階も探してみたが姿がなかった。
裏口から逃げやがったなあああああああああ!!
あの最低のクズ親父ッ!!
「さあ、兄ちゃん。耳揃えてキッチリ返して貰おうか!!」
屈強な男達に囲まれ、俺は萎縮するしかなかった。なんだよ、一千万円って……。なんで俺が返さなきゃならないんだ……!
絶望的かと思われたその時。
スマホに反応があった。
ん、こ、これは……月島さん。
取り立ての男達に許可をもらって電話に出た。
「どうした、月島さん」
『そちらの状況どうですか?』
「こっちはヤバい。亞里栖を見つけたが、今度は取り立てに一千万円を要求されている。馬鹿親父が俺を連帯保証人にしていたんだ……困った」
『そうでしたか。それは災難ですね……。よければ、私が払いましょうか?』
「え……?」
『ただし、婚約はしていただきますが』
「な、なんだってー…」
婚約を条件に一千万円か……。
……救いの手ではあるが、亞里栖のことを考えるとな……。いや、今はその亞里栖の為と思って婚約を条件にするしかないか。
どのみち、これから月島の家でお世話になる可能性が高いのだから。
亞里栖、すまん。許してくれ……。
でも、婚約は破棄も可能だからな。万が一があれば……。いや、先のことはいい。今が大切なんだ。
俺は決断した。
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