第19話 義妹とナニをした……?
なにも思い出せない。
昨晩、なにがあった……?
目覚めると朝を迎えていた。
あれから、ナニがあったのか。うーん……。
あ。
そうだった。
欲望に負けて亞里栖に襲われていたのだった。
そう、俺から襲ったわけではない。亞里栖が俺を襲ったのだ。だから、仕方なかったのだ。
抵抗なんて出来るハズもなく。
しかし、最高の時間を過ごせた――気がする。
幸せな時間はあっと言う間で、記憶も曖昧になりがちだ。どうしてだろうな……。
ベッドから降り、俺は鈍った体をほぐす。
亞里栖の姿はない。
朝一緒に迎えたことはない。アイツは必ずどこかへ行ってしまうな。
部屋を出ると、ちょうど月島のおばさんと会った。
「おはよう、両ちゃん」
「おはようございます、おばさん」
「昨晩は、ごはんも食べずに寝ちゃったのね」
「すみません。疲れていたみたいです」
「亞里栖も姿がなかったわ。もしかして、一緒にいた?」
おばさんの指摘に俺はドキッとした。
いかんいかん。冷静になれ。落ち着け俺よ。
「は……はい。ちょっと寝落ちしちゃって……」
いや、本当は亞里栖とシていましたとか言えない。恩人にそんなこと、口が裂けても言えないッ!
ここは誤魔化すしかないのだ。
「そう。ところで、お母さんのことは聞いた?」
「あ、ああ……はい。瀬奈さんから聞かされました」
「話さなくてごめなさいね。隠すつもりはなかったのだけど……」
月島のおばさんは申し訳なさそうに頭を下げた。
でも正直、おばさんに対して許せないとかそういう感情はなかった。どちらかと言えば俺は嬉しかった。
母さんを救ってくれて感謝している。
「いえ、全力で治療してくれているようですし、助かっています。……あんな状況にした親父は許せないですけどね」
「元さんね。あなたの父親のことを悪く言って申し訳ないけど、彼はどうしようもない人。関わってはいけない人間よ」
「ええ、その通りです。親父はクズです……」
事実だ。
これまで散々人様に迷惑を掛け……。月島のおばさんにもお金の無心をしていたらしい。そして、複数の闇金にも手を出していた。
もう救いようのない馬鹿だ。爆発して滅びて欲しい。
「もし困ったことがあったら言ってね」
「助かります。……でも」
「でも?」
「あの、おばさん。なんでそんなに親切にしてくれるんですか……? 俺が母さんの息子ってだけで……こんなに良くしてくれるものですか?」
そう、俺はずっと気になっていた。
子供の頃から本当の息子のように大切にしてくれていた。母さん以上に、母親だった
母さんは、決して面倒見がいい方ではなかった。
俺を放置することが多いと感じたほど。
月島のおばさんが面倒を見てくれて……だから、一緒に過ごす時間が多かったというのもある。
だけど、それでもここまでよくしてくれる理由が分からなかった。
「……それは……」
おばさんは、なぜか辛そうに言葉を詰まらせた。
な、なんだろう……。
――聞いてはいけなかった話だったかもしれない。
胸の内に秘めておくべきだったか。
そうか。まだその時ではないということか。
「分かりました。また機会があったら教えてください」
「……ありがとう、両ちゃん。でもね、必ず教えるから」
「待っていますよ。……さて、俺は大学へ行きます。亞里栖の監視をお願いできますか?」
「任せて。今、亞里栖ちゃんは温泉にいるみたいだから」
そうか、それで姿が見えなかったのか。
朝からお風呂に入るの好きだからなぁ、亞里栖。
昨日襲われたお返しに、突撃してやろうか……? いや、瀬奈さんが一緒にいたらマズいな。それに、この
……って、マテ。
「お、温泉?」
「そうよ、両ちゃん。この
す、すげぇなオイ。
それなら余計に突撃は不可能だな。
昨晩は部屋に備え付けられていたシャワーを浴びていたが、まさか温泉まで完備していたとはな。恐るべし、月島家。
それから俺は準備を進めていく。
途中、執事の武蔵とも会って挨拶を交わした。
「おはようございます、相良様」
「おはよ。執事さん」
「私のことはお気軽に武蔵と呼んでください」
「了解。武蔵」
「ありがとうございます。ご入用でしたら何なりとお申しつけください」
背筋がピンとしている。良い姿勢かつ笑顔の武蔵。異世界から召喚された執事にしか思えないほど、シッカリしているな。
これほどレベルの高い執事が日本に実在したとは……。
◆
月島家を出発。
今日から執事の武蔵が送り迎えをしてくれるようだ。まさかの状況だった。
高級車に乗り込み、大学へ。
数十分もすれば到着した。
「さすがに高級車から降りると目立つな……。しかもガチ執事に対応されてるし」
「堂々としていれば大丈夫ですよ、相良様」
「そ、そうかな。あ、ちなみに俺のことは名前でいいって」
「では、両様と」
それはそれで、ちょっとな……。まあいいか。俺はあんまり苗字が好きではないから、名前呼びの方が助かる。
慣れない感情を抱きつつ、俺は大学へ。
講義を淡々と受け続けていく。
途中、悪友の永倉とも会った。
永倉は、俺の義妹……亞里栖のことが気に入ったらしくて、しつこく聞いてきた。
ラブホで出会ったのがマズかったな。
ここまで興味を持たれるとは。
面倒と思いつつも、俺は永倉に亞里栖は天然痘、ペスト、コレラ、インフルエンザ、結核に梅毒とチフスを併発して寝込んでいると適当に説明しておいた。
「死ぬだろ、それ」
「いや、それが奇跡的に生きているんだよ、永倉」
「そんなに会わせたくないのかよ!」
「ったりめーよ」
誤魔化して、俺はなんとか大学を脱出。
ふぅ。永倉は良い奴だが、油断はならん。
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